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(あれって!)
《もしかして、出口を示してくれているのでしょうか?》
エミカーラの眼力で目をこらすと、光線が指し示した中空には陽炎のような綻びが発生しており、光線自体もその綻びに吸い込まれて行っているようだ。どうやら人工的に発生させた異空間ゆえ、こうした不具合があるようだ。光線はやがて二手に広がってその綻びをこじ開け、現実世界への通用口を拵えてくれた。
(メイトブレスってこんな力もあるんだ。凄いね!)
カゲトモを助けるアイテムだという女王の言葉がまさに真実だったことを映美は噛み締めた。隣のカーラを見ると、少し感極まっているのがわかった。
《ペルセフォネ様、本当にありがとうございます。……さあ急ぎましょう!》
(うん!)
エミカーラは走り出し、メイトブレスが開いた入口に飛び込んだ。黄金色の光が溢れる回廊を駆け抜け、ふたりは一路現実世界へと急ぐのだった。
さて、時間は少しばかり遡り……エミカーラが未だデビルケラトプスと対峙していた頃、現実世界の科学館でもひとつの事件が起こっていた。人のオーブを探すティーン一味の動向を密かに窺っていた香苗のことである。
(何? 何なの?……あの人の頭から生えてるのは角? たんこぶ?……さっきから何かを調べてるみたいだけど……)
訝しむ香苗の視線の先で、ティーンは自分の感覚機能をバイタルレーダーに導引して反応を解析。とうとうオーブの最終的な位置を割り出してしまった。
「あったぞ……あそこだ! こんな近くで息を潜めていたとはな!」
ティーンが歓喜して指差した先は、なんと展示室の中央に置かれたティラノサウルス・レックスの骨格模型……その頭部だった。
(えっ……?)
香苗にとっては最上の友にして永遠のアイドルでるティラノサウルス。襲撃者の探し者がなんとそこにあるというのだから香苗は驚いた。
「ダミー反応などと小癪な真似で振り回しやがって……姿を現せ、オーブ!」
香苗がこれまで幾度となく見上げたその精悍な頭蓋骨に、ティーンの端末からレーダー波が照射された。するとどうだろう、ティラノサウルスのぽっかり空いた眼窩の底の部分に、何やらぼんやりと青く光る物体が立ち現われて来た。
「あったぞ! シャドーキャッスルで記録された波形と99%以上一致している……あれがまさしく人のオーブだ!」
襲撃者の首魁が何故こんなにも狂喜しているのか、その理由は香苗にはわからなかった。しかし、それとは別に香苗の中でひとつの熱い感情がふつふつと湧きあがって来ていた。
(レックスの目にあんなものがあったなんて……この人たちは、あれを手に入れるために科学館をこんなに荒らしたっていうの? わたしの居場所を……わたしの大切な恐竜たちを……)
ここへ戻って来る途中、香苗は散々に荒らされた科学館の様子を見て来た。倒されたショーケース、打ち壊されたジオラマ、散乱した史料の数々……職員お手製のポップやポスターに靴跡が付けられているのも、香苗はその目でしっかりと見た。今、それら全ての横暴の張本人を目の前にして、香苗の心は怒りで満たされていた。
「ふざけないで!!」
気が付けば、香苗は通路の陰から飛び出してティーンらに叫んでいた。ティーンは丁度、手下に指示してティラノサウルスの頭蓋骨を引き下ろそうとしていたところ。突然現れた小さな地球人に彼は少し当惑したが、すぐにいつもの侮蔑的な態度に戻った。
「何だ、ちっぽけな地球のガキがまだ居たのか。おれに文句でもあるのか? えぇ?」
「うるさい! あなたたち、今すぐここから出てって! わたしのレックスに何かしたら、絶対に許さないんだから!」
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