第4話 エミカーラ脱出せよ!真昼のミュージアムパニック!

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 半分パニックになりながら、香苗はティーンに食って掛かる。そんな必死の反抗を嘲笑いながら、ティーンはつかつかと香苗に歩み寄る。 「誰を許さないって? 無力なただのガキが、このおれをか? フン! 身の程を知れぇ!!」  ティーンはわざと語気を強めて怒鳴り付け、香苗を恫喝する。香苗はビクッと身を震わせ、声を上ずらせて後ずさる。 「な、何よ……そんな風に言えば、わたしが、わた……し、がぁ……っ!」  瞳はまだティーンを睨みつけようと健気に見開いているが、大人の男に大声を出されるということ自体、小学生の香苗にとっては耐え難い恐怖だ。たちまち目尻には涙が溢れ、手にしていたスケッチブックがバタリと取り落とされた。 「ハハッ! 泣いた泣いた!」  愉悦を噛み締めるティーン。その悪辣な視線は、床に落ちたスケッチブックを次なる標的に定めた。弾みで開かれたページには、色鉛筆で描かれた恐竜たちが居る。 「フフン、くだらん絵など描いている暇があったら、少しは社会勉強をするんだな! これはひとつ、おれからの教育だ……しかと受け取れよ!」  ティーンは革靴の足を振り上げ、香苗のスケッチブックを今まさに踏みつけようと、これ見よがしに見せつける。香苗の顔が恐怖と屈辱でくしゃくしゃになり、スカートを掴む手に涙がポトリと落ちた。 (悔しい……こんな、こんな最低な大人に何も言えないなんて……悔しい!!)  その時であった。ティラノサウルスの眼窩に収まっていた物体が突如として輝きを増し、その青い光をベールのように下ろして骨格模型全体を包み込んだ。 (な、何なの? レックスの骨が青く光って……凄く綺麗……)  その神秘的な光景に、香苗は勿論ティーンの部下たちも目を見張り驚いている。背を向けているティーンただひとりが、香苗をいじめるのに夢中で異変に気付いていない。  やがて光のベールは寒々とした骨格模型に肉を纏わせ、温かい血を通わせ、ついに鼓動までも与えて一個の生命として現世に解き放った。樹脂製の作り物に過ぎない筈のティラノサウルス・レックスが、香苗の眼前で本物の恐竜へと変貌を遂げていく。 (レックスが、動く! ああ、これは夢なの? いえ、確かにあれはティラノサウルス・レックスよ!毎日図鑑で眺めてるのと同じ……わたしのレックス!)  感激に涙も引っ込み、息を呑む香苗。その様子を見てティーンはやっと訝しむが、それは既に遅すぎるというものだ。 「ん~? なんだその顔は? 急に惚けたようになりやがって……つまらん、何とか言ったらどぅおおおおおおおおおお!?!?!?」  生命を得てとうとう動き出したレックスが、ティーンをその大きな口に咥えて高々と持ち上げた。いきなり体が十メートルも宙に浮き、ティーンが素っ頓狂な声を上げて狼狽する。 「なんっだこれはあああああああっ!? こんな大型動物が今の地球に生存している筈が……ええいお前ら助けんか!!」  ティーンは胴体にかぶりつかれたまま激を飛ばすが、手下は殆どが腰を抜かして動けない。律儀にレックスに立ち向かったただ一人も、尾の一振りに怯えてすっ転ぶ始末。そんな弱者たちを鋭い眼差しで見渡すレックスの姿は、香苗の憧れる白亜紀の王者そのものだった。感極まって腕を振り回し、香苗がレックスに呼びかける 「噛み砕いてレックス!! そいつは悪い奴なの!!」  健気にして殺意の高すぎる号令にレックスは応え、鋭く尖った肉食竜の牙をティーンの胴体に突き立て、顎全体を使ってギシギシと噛み締めた。 「うぎゃあああああああああっ!!」  特殊繊維で縫製されたティーンの余所行き服は動物の歯ごときでは食い破れないが、捕食されるという確かな実感がティーンに心からの悲鳴を上げさせた。
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