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カーラの置かれた境遇は厳しい。全て解決はしてあげられなくとも何らかの手助けができるのだとしたら、映美にとってこれほど嬉しいことは無かった。
『そ、それは……』
「教えて欲しいな。ボクは何をすればいいの?」
『映美さん、しかし……』
ところが、映美が問うなりカーラは一転して言い淀んでしまい、何やら逡巡している様子。そこまで返答に困るようなことを聞いた覚えは映美にも無かったのだが。
『……確かに、有事の際には自らのシャドーメイトに助力を請うようにと……女王様は仰っていました。ですがこれは……そんなに生易しいことではないのです』
はっきりしない物言いのカーラ。映美は少しむっとした。
「多少のことはどんと来いで引き受けるよ。そのための友達でしょ?」
『ですから、お友達に頼みごとをするような気楽なものではないのです!』
思いのほか強い語気で、カーラは映美の言葉をはねのけた。映美はびっくりしてしまい、言い返すのも忘れてポカンとしてしまった。それを見て、カーラはハッと我に帰る。
『あ、ああ……ごめんなさいっ、私……』
「ううん、いいけど……そんなに大変なの?」
映美が恐る恐る聞いたその時だった。一天にわかにかき曇り、灰色の雲が映美たちの頭上で渦を巻くように集まったかと思うと、その塊が中心からバッと弾けて、忽ち空中が一面毒々しいピンク色に染まってしまった。
「えっ、何!?何なのこれ!?」
映美は声を上ずらせながら空を仰ぎ見た。妖しく光るビビッドピンク色の空に、墨汁を数滴引き摺ったかのような黒いもやが禍々しさを添えている。太陽すらどす黒い色の光球に姿を変えており、どう見ても尋常の空模様ではない。
『同じ……同じです、シャドー界の時と……』
映美はカーラの方を見た。幸い彼女は変わらずそこに居る。が、様子がおかしい。両手で己が肩を抱き、身を縮めてガタガタと震えてしまっている。映美は直感した。
「カーラ、まさか!」
『この空は敵の来襲の前触れ……滅びの兆しです!』
やはりそうだ。今のこの現象こそ、カーラに降りかかっている災厄そのものなのだ。映美は怯えるカーラを気遣いながら、妖しげな空を睨んだ。
「おい!滅びだか何だか知らないけど、おどかしてばかりいないで出てきたらどうなのさ!カーラを泣かせる奴はボクが許さないぞ!」
あらん限りの声を張り上げ、映美は空を挑発した。しかし、空では黒いもやが不気味に流れゆくのみで応える者はない。代わりに、公園の入り口の方から何者かの声が返って来た。
「おやおや、随分と勇ましい子猫ちゃんが居たものだ」
「誰っ?」
映美が声のした方を見ると、そこには華美な出で立ちの男がひとり立っていた。
「だが、おどかしとは心外だな。これはハンティングフィールド……狙った獲物を異空間に隔離し袋のねずみと化す、我々の誇る必勝の戦術なのだよ」
ファーのついたコートに派手な眼鏡……男の格好自体は、街で出くわしそうな不思議な大人とそう変わらない。しかし異様なのは男の頭部。赤い頭髪をかきわけて、爬虫類の背びれを思わせる一対の発光体が額から後頭部にかけて張り出している。男が地球の人間ではないことが映美にも一目でわかった。
「あんたなの?……シャドー界を襲った敵っていうのは」
この異次元の状況下で普通に言葉が出る自分に、映美は自分でも驚いた。相手の男にとっても意外だったらしく、口角をにんまりと上げたのち恭しく一礼して応えた。
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