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「ぜー……ぜー……げっほ……あー疲れた。……ねぇカーラ、シャドーメイトってさ、やっぱりああいう悪い人たちと戦うのが使命……なんだよね?」
『っ……』
一瞬声を詰まらせ、躊躇する素振りを見せたカーラ。しかし彼女も最早言い逃れる術も思いつかないらしく、観念したように口を開いた。
『……そうです。シャドーメイトは人とシャドーを繋ぐ存在……二つの世界のエネルギーを結集させることができる特別な力を持っています。その力を用いれば、地球に仇なす如何なる敵をも打ち払うことができる……それがシャドー界に伝わる言い伝えです』
「その感じだと……戦うのはカーラだけじゃなくて、ボクもなんだ?」
映美は、カーラが辛そうにうなずくのを見た。そして理解した。友達であろうと頼むのが躊躇われる……カーラがそう言った理由を。そしてカーラが真に怖れていたことを。
「シャドー界の戦いにボクを巻き込むからって……そうなんだね?カーラ」
『……戦いは嫌です。痛いのも怖いのも……映美さんの命が失われるのも、全部嫌!でも戦わないとシャドー界が……女王様の思いが無になってしまう……!映美さんも女王様もどちらも大事なのにっ……私、もうどうしたらいいかわからない!』
映美の前でうずくまり、感情を吐き出すカーラ。彼女というひとりの少女が、映美の目にはとてつもなく尊く、そして儚い存在に映った。愛する者を気遣い続ける優しさ、それゆえに自らの心を苦しめてしまう切なさ。それが映美の心を震わせてやまなかった。
(ああ……泣かせたくないなぁ……)
ある決意を胸に抱き、映美は静かに拳を握りしめた。その時、地響きが連続して起こり、アスファルトを踏み砕く轟音と共にこちらへ向かって来た。
『あれはっ……』
「げっ、もう追いつかれた!?早すぎでしょ!」
慌てる間にもそいつは砂塵を巻き上げて急接近し、二人が寄りかかるビルの上からぬっと顔を出した。
「で、でっかい……」
それは、全身が銀色に光る機械の怪物。獣のような顎と真っ赤に光るカメラの眼を持ち、強靭な脚部で二足歩行をする動物型の巨大ロボットだった。六階建てのビルをも軽く超すその威容に、映美は思わず呆気に取られてしまった。
ロボットの頭の横にはティーン・ブラーボの姿があった。椅子を模した奇妙な乗り物にどっかりと腰かけ、映美とカーラを見下ろしながら滞空している。
「ははははは!どうかね、ファミリーの技術力の結晶、デビルメカを見た感想は!えぇ?地球人、今すぐそのシャドーの女を連れて投降したまえ!命だけは助けてやらんこともないぞ」
重ねて高笑いをするティーン・ブラーボ。反射的にムカッと来た映美は、拳を振り上げて精一杯に吠える。
「誰が!ちょっとおどかせば相手が言うことを聞くと思ってる、あんたみたいなのが一番嫌いだよ!」
「フッ……おどかし、ね。では要望に応えてもう少しおどかしてやろう。デビルアルマー!」
ティーン・ブラーボは手に持った端末を光らせ、ロボットに命令を下した。デビルアルマーと呼ばれたそのロボットは大きな爪を持つ手を振り上げると、ビルの壁面に横殴りに叩きつけて六階部分をあっけなく粉砕した。
「わーっ!」
『映美さん!』
瓦礫と鉄骨が雪崩のように滑落し、映美とカーラの上に降り注ぐ。その轟音に叫び声はかき消され、二人の居た裏路地はたちまち砂塵とコンクリートで埋め尽くされてしまった。
「おや、少々おどかしが過ぎたか?まあ始末はできたことだし……良しとするか」
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