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一転して訪れた静寂を前に、ティーン・ブラーボがほくそ笑む。
しかし、瓦礫の山の下で映美とカーラは生きていた。大きな鉄骨同士が上手く支え合ってくれたおかげで、人ひとり影ひとり分程の隙間ができていたのだ。
「あいたたた……何とか生きてるみたい。カーラは大丈夫?」
『私は大丈夫です。それより映美さん、血がっ……』
カーラが放つ紫苑色の輝きで、空洞内は薄明りに包まれている。映美はガラス片で切ったと思しき肩の傷を手で押さえた。
「こんなのかすり傷だよ。しかし、うーん……この状況はやばいかもね」
『ごめんなさい……私の所為で映美さんが……私なんかと……』
カーラがその先に言おうとする言葉を、映美は彼女の口元を指で押さえて制止した。
『んむっ……何を』
「それは言いっこなしだよ。それよりさ、カーラ……戦おうよ、ボクたち」
『えっ……?』
絶句するカーラ。多分、驚いて目をまんまるに見開いていることだろう。それを想像しながら映美は続ける。
「このまま居ても多分助からないし……まあ、そうでなくても覚悟はさっき決めてたんだけどね。どうかな……カーラさえ良ければだけど、一緒に戦わない?」
『どうして……ですか?映美さんは、戦いが怖くはないんですか?』
そんなことない。映美とて人の子、さっきだって滅茶苦茶怖かった。しかし、映美にはそれ以上に映美自身を突き動かす、強い気持ちがあった。
「ボクさ……あんまし喧嘩とかしないし体力もないから、命をやり取りする戦いなんて考えたこともなかったんだ。でもね、今はカーラを助けたい。カーラの背負ってるもの、カーラを苦しめるもの、全部全部なくしてしまいたい。そのためなら、ボクはいつだってげんこつを握れる……そんな気がするんだよ」
ぎこちなく握り拳を作って見せ、映美が笑う。少しはにかんだその微笑みが、カーラの心をひとつ確かに打った。
――お信じなさい、貴女がずっと憧れ続けてきたその子を
シャドー界を去る時女王に貰った言葉が、カーラの脳裏によみがえる。
《ああ……そうなのですね、ペルセフォネ様……。私はこの人と出会うため、この人と手を携え行くために……》
カーラのシルエットから発せられる輝きが、強さを増して映美を照らし出す。眩みながらも目を逸らさぬ映美に、カーラは固い意志でもって告げた。
『わかりました、映美さん。あなたの思いに私は応えたい。あなたが私のために拳を握ると言うのなら、私はそんなあなたのためにこそ勇気を奮います。……戦いましょう、ふたりで。そして人間界とシャドー界、この地球にあまねく平和を!』
「カーラ!」
気高い宣誓。それを聞いて映美の瞳も凛と輝く。
『さあ映美さん、私と手を重ねてください』
地面に映るカーラの光り輝くシルエットが、左の掌をかざす。映美はそれに真っ直ぐ向かい合い、右の掌をぴったりと重ね合わせた。
『これで伝わる筈です。一緒に唱えてください。行きますよ……』
「わかった……行こう、カーラ!」
意は既に決し、自然と目を閉じる映美。その頭の中にひとつの合言葉が流れ込んで来る。カーラも準備は万端。息を合わせ、ふたりは一斉に唱えた。
「シャドーアップ!!」『シャドーアップ!!』
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