第1話 シャドー界の悲劇!カゲはトモだち?

9/13
前へ
/47ページ
次へ
 一転して訪れた静寂を前に、ティーン・ブラーボがほくそ笑む。  しかし、瓦礫の山の下で映美とカーラは生きていた。大きな鉄骨同士が上手く支え合ってくれたおかげで、人ひとり影ひとり分程の隙間ができていたのだ。 「あいたたた……何とか生きてるみたい。カーラは大丈夫?」 『私は大丈夫です。それより映美さん、血がっ……』  カーラが放つ紫苑色の輝きで、空洞内は薄明りに包まれている。映美はガラス片で切ったと思しき肩の傷を手で押さえた。 「こんなのかすり傷だよ。しかし、うーん……この状況はやばいかもね」 『ごめんなさい……私の所為で映美さんが……私なんかと……』  カーラがその先に言おうとする言葉を、映美は彼女の口元を指で押さえて制止した。 『んむっ……何を』 「それは言いっこなしだよ。それよりさ、カーラ……戦おうよ、ボクたち」 『えっ……?』  絶句するカーラ。多分、驚いて目をまんまるに見開いていることだろう。それを想像しながら映美は続ける。 「このまま居ても多分助からないし……まあ、そうでなくても覚悟はさっき決めてたんだけどね。どうかな……カーラさえ良ければだけど、一緒に戦わない?」 『どうして……ですか?映美さんは、戦いが怖くはないんですか?』  そんなことない。映美とて人の子、さっきだって滅茶苦茶怖かった。しかし、映美にはそれ以上に映美自身を突き動かす、強い気持ちがあった。 「ボクさ……あんまし喧嘩とかしないし体力もないから、命をやり取りする戦いなんて考えたこともなかったんだ。でもね、今はカーラを助けたい。カーラの背負ってるもの、カーラを苦しめるもの、全部全部なくしてしまいたい。そのためなら、ボクはいつだってげんこつを握れる……そんな気がするんだよ」  ぎこちなく握り拳を作って見せ、映美が笑う。少しはにかんだその微笑みが、カーラの心をひとつ確かに打った。 ――お信じなさい、貴女がずっと憧れ続けてきたその子を  シャドー界を去る時女王に貰った言葉が、カーラの脳裏によみがえる。 《ああ……そうなのですね、ペルセフォネ様……。私はこの人と出会うため、この人と手を携え行くために……》  カーラのシルエットから発せられる輝きが、強さを増して映美を照らし出す。眩みながらも目を逸らさぬ映美に、カーラは固い意志でもって告げた。 『わかりました、映美さん。あなたの思いに私は応えたい。あなたが私のために拳を握ると言うのなら、私はそんなあなたのためにこそ勇気を奮います。……戦いましょう、ふたりで。そして人間界とシャドー界、この地球にあまねく平和を!』 「カーラ!」  気高い宣誓。それを聞いて映美の瞳も凛と輝く。 『さあ映美さん、私と手を重ねてください』  地面に映るカーラの光り輝くシルエットが、左の掌をかざす。映美はそれに真っ直ぐ向かい合い、右の掌をぴったりと重ね合わせた。 『これで伝わる筈です。一緒に唱えてください。行きますよ……』 「わかった……行こう、カーラ!」  意は既に決し、自然と目を閉じる映美。その頭の中にひとつの合言葉が流れ込んで来る。カーラも準備は万端。息を合わせ、ふたりは一斉に唱えた。 「シャドーアップ!!」『シャドーアップ!!』
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加