【8】

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「静夜さん……。その顔、ズルいっす!」  あの夜、静夜の暴挙に騒然となった店内。困惑した店長とマネージャーに頭を下げたのは剣斗だった。  高額なVIPルームの料金と引き換えに、彼が選んだのは静夜の幸せだった。  広武に連絡を取り、至急店に来るようにと告げたのも彼の仕業だったと知ったのは、あれから数日後のことだった。  静夜がナンバーワンから退いたことで、在籍ホストのランキングが大きく変動した。そこで裏方に回った静夜は可愛がっていた剣斗を推し、今では店の上位ランクに位置付けられている。だが、決して静夜だけの力でそうなったわけではない。彼のあの時の対応に男気を感じた客からの人気が高まり、今ではキャンセル待ちが出るほどの指名率となっている。 「惚れても無駄だからな」 「殺されますって……。真鍋社長、マジで怖いんすからっ」 「――誰が怖いって?」  カツン……と高らかに鳴った靴音に、緊張感が走る。  静かなフロアに低く、そして以前よりも甘く少しだけ柔らかくなった広武の声が響いた。  今日もまた一流ブランドのフルオーダースーツに身を包み、完璧とも言えるスタイルで静夜のもとに歩み寄ると、金色の髪にそっと唇を落とした。  彼の左手の薬指には静夜と同じリングが光っていた。 「お……お疲れ様ですっ!」  まさかの本人登場に焦った剣斗が慌てて頭を下げた。そんな剣斗に涼しい視線を投げかけながら、フロアをゆっくりと見回した。 「忙しいって言ってたクセに……」 「通りかかっただけだ。――どうだ? 気に入ったか?」 「別に……。フツーじゃない?」  他人の前では、広武との関係を冷やかされたくなくてツンと顔を背ける静夜ではあったが、本当は嬉しくて仕方がなかった。その証拠に、自身の指を広武の指に落ち着きなく絡めている。 「――女王様には敵わないな」
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