【3】

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 だから――『デウス』のナンバーワンホストとしてやって来られたのかもしれない。  特定の男に心を開いてしまった時、女王としての地位は大きく揺らぐ。  ただでさえ落ち着かない心臓を鷲掴みにされたような衝撃と戸惑い、そして恐怖が静夜を襲った。  丁度、シャツの襟で隠れる首の付け根に唇を押し当てられ、次の瞬間チリリとわずかな痛みが走った。  大切な商売道具である男娼の身体に、キスマークをつけることも暗黙のルール上では禁止されている。  それを知っていて、何の衒いもなく自分の所有物のように情痕を残した広武に憤りを感じた。それなのに静夜の口から洩れたのは熱っぽい吐息と「あぁ……」という小さな喘ぎだけだった。  鎖骨をなぞる様に舌先を這わせ、顔を上げた広武はわずかに開かれたままの静夜の唇をそっと塞いだ。 「うぅ……っん!」  呆気なく絡めとられた舌がピチャリと小さな音を立てる。下半身がゾクゾクするような彼のキス。  意思とは関係なく力を蓄えてしまうペ|ニスを隠すように、静夜は両足を摺り寄せて内腿にギュッと力を入れた。 「はぁ……ぁん」  ブラインドは閉められてはいるが、細く射し込んだ光が平日の昼間だという事を教えてくれる。  ここは夜の歓楽街のど真ん中。『デウス』のVIPルームではないのだ。  それなのに部屋に充ちる空気は濃厚で、二人の香水が重なり合うように淫靡な香りを放つ。  本来、甘い蜜を振りまきながら誘うはずの花が、今はふらりと現れた蝶に惹かれている。  その蝶は、他のどの蝶よりも美しく強烈なオスの色香を放つ。  銀色の糸を引きながら離れた唇はまだ、あの夜のように震えていた。 「――お前は俺のモノだ。この唇も……」 「ん……っ」 「他の男とのキスは許さない……いいな?」  人を見下して、すべてを支配するような傲岸な物言い。静夜が望む、足元に跪いて磨かれた靴に頬を寄せ懇願する彼の姿とは程遠い。しかし、組み敷かれて彼の所有印を残され、挙句の果てには客とのキスまで禁じられた今――なぜか心地いい。  静夜にそういった属性は思い当たらないが、広武にこうされることを心のどこかで望んでいた自分がいる。  その場の雰囲気に流された……という言い訳が通用しないほど、静夜の中で広武の存在が急激に大きく膨らんだ瞬間だった。
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