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広武のキスの感触を思い出しては泣きながら自慰に耽り、バカだと自分を罵りながら幾度も達し、手を濡らす白濁を見て強烈な虚無感に襲われながらまた泣いて……。
彼の名刺とスマートフォンを交互に見つめ、何度も番号を押しては躊躇って消した夜。
こんな情けない自分を認めたくなかった。でも、ぽっかりと開いてしまった心の穴は、そう簡単には塞がってはくれなかった。
広武が超絶イケメンで、自分の好みであることは認める。だから、一目見たあの夜に落としたいと思った。
飽きたら、いつものように見切ればいい……そんな軽い気持ちだったはずなのに、なぜか落とされたのは自分だった。
思わせぶりな言動、腰が砕けるようなキス、そして――自身の本名を囁いた低い声。
きっと黒咲だけじゃない。他の店の男にも同じことをしている。頭では分かっていて何度も言い聞かせるのに、それを否定し続けるもう一人の自分。
客に体と至福の時を与えて稼ぐウリ専ホスト。その一方で、仕事だと割り切った体と心を満たして欲しいと願う自分。その狭間で揺れ続けた静夜は、眠れぬ夜過ごした。
望んで手に入らないものはなかった。欲しいものは客が嫌というほど貢いでくれた。
でも、それはナンバーワンホスト水城静夜が満たされているに過ぎなかった。
本当の自分――辻本湊太は何一つ手に入れていない。
客に抱かれたあと、素の自分が何度も責め立てる。「それで満足か? これで満たされたのか?」――と。
だから……壊しに来た。何もかもをぶち壊して、苦しみから一刻も早く逃れたかった。
「盛り上がってるね……。今夜は、お前らの邪魔をするつもりで来たんじゃないから安心して」
薄っすらと笑みを湛えながら、テーブル席を見回して舌先で唇をゆっくりと舐めた。まるで品定めでもしているかのような彼の仕草に、フロアマネージャーが背後から近づき小声で彼を制した。
「静夜さん。これは何の真似ですか?」
「ちょっと面白い遊びを思いついたんだよね。だからさ……来たんだよ」
「遊び?」
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