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バスの乗客
山を走る一台の深夜バス。
そこに飛び乗った彼はガタガタと震えていた。
「ああ、誰かに話さないではいられない。彼は僕を恨んでいたのだ」
思わずそう呟いた。滝のように額から眼から体液が噴き出す。歯がガチガチと鳴る。
「隣、いいですか?」
そう声を駆けてきたのはヘルメットの人物だった。次のバス亭で乗ったのだろう。
ヘルメットで顔は見えないが、それでも今の彼にとっては代えがたい救いだった。
「何か事情がおありの用だ」
「そうです。とても怖い思いをしました」
「怖い思い?話していただけますか」
ヘルメットの人物は興味深げに首をかしげた。
「僕は――」
もうどれほど前でしょうか。
僕らがこの山に来たのは、僕が企画したバイクのツーリングの為でした。
僕らというのは大学の同期の6人。女の子もいました。
あの日は雨だったんです。
路面も滑るからゆっくり行こう、そう思っていたんです。
でも、格好をつけたくなった一人が無茶な運転をして・・・・・・。
ああ、今でも覚えています。
地面に広がる血。
悲鳴。
ぐしゃぐしゃに潰れて誰のものか分からなくなった顔!
僕の企画したツーリングのせいで、同期の一人が死んでしまった!
「痛ましい話ですね」
「だから僕は、あのツーリングを企画した僕は毎年この時期にここに花を手向けるようにしているのです。これで何回目かは忘れてしまったけれど、ずっと花を手向けてきたんです。許してください、許してください、と」
彼は頭を振った。
「でもね。 許してはもらえなかったんです」
「何故ですか?何故あなたが許してもらえないと思うのですか?」
だって僕は今日見ました。
居ましたから。
削げた鼻、垂れた目玉、血だらけの顔で、彼が彷徨っていましたから。
泣き叫びながら!
ああ、死んでしまった後も!僕を恨んでたった一人で暗い山の中を彷徨っているのか!
僕は恐ろしくなり哀しくなって、このバスに飛び乗りました。
彼が救われるにはどうしたらいいのだろう!
「あなたを恨んでいる人物は、痛ましい姿で森の中をたった一人で彷徨っている、そう思うのですね?」
ヘルメットの人物は頷いて、真っ直ぐに彼を見た。
「その顔はもしかして」
「え」
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