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療養所にて
ボストンに住んでいるときは月に一回くらいしかママに会えなかったけど、こっちに来てからは週末にはいつもママに会えるようになったの。
ダニッチは田舎過ぎて退屈だけれど、ショゴスとお友だちになってからはずいぶんと楽しくなったわ。ママに会う時と同じくらいにはね。
ママはアーカム療養所というところに入院しているの。ここにはママのような重い病気の人がたくさん監禁さ……じゃなくて入院しているのよ。
さっきもとなりの病室から「窓に!窓に!」って叫ぶ声が聞こえてきたのよ。いったい窓に何が見えたのかしらね。
ママはベッドの上で上半身を起こして窓から外をながめながら、いつものように何かよくわからないことをつぶやいていたわ。
「そはとこしえに よこたわる ししゃにあらねど はかりしれざる えいごうのもとに しをこゆるものなり」
「そんなことよりママ聞いて!わたしとオーガストはね、森の中ですごいものに会ったのよ!」
「りーて らとばりた うるす ありあろす ばる ねとりーる」
「なんだと思う?ショゴスよ、ショゴス!」
オーガストがわたしの口を押さえて首を横に振ったわ。お姉ちゃんダメだよ、それは言わないっていう約束だったじゃないかって言いたげにね。
「大丈夫よ、オーガスト。パパはお医者さまと別のところでお話ししているし、ママはこんなだからね」
ママはわたしの言ったことが聞こえていないみたいに、あいかわらずよくわからないことをつぶやき続けていたわ。
「そのもの あおきころもをまとひて こんじきののに おりたつべし」
その日はステキなことが二つあったのよ。一つは、お見舞いの後でパパにステキな青いワンピースを買ってもらったこと。
もう一つは、ママの病状がよくなってきてるから来週には一時退院できるらしいってこと!
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