とある一家の物語

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とある一家の物語

 わたしの名前はエイプリル。読書とスイーツが大好きなどこにでもいる12歳の女の子。  キライなものは虫。あの不気味な触角とかギザギザした六本の足とか変な筋の入った透明の羽根とかブヨっと柔らかいお腹とか……気持ち悪い!思いだすだけで虫唾が走るわ!  わたしの夢はいつかステキな王子様みたいな人と結婚して、お城みたいな大きなお屋敷で幸せに暮らすこと。早くわたしのもとにあらわれてくれないかな!  それじゃ家族のことを紹介するわね。パパとママ、それから弟のオーガストの4人家族。  パパは大学の先生。何を教えてるのかはわからないけど、家ではいつもホコリだらけでカビくさい古い本をよく読んでいるわ。  パパが家にいない時にわたしも何冊か開いてみたことあるの。だけど学校でも習ったことのないような難しい言葉で書かれてて全然読めなかったわ。大人ってどうしてあんな分厚い本が好きなのかしら。  わたしなら薄い本ね。とらのあなで売ってるような薄い本を読むわ!  それからママ。ママは病気なの。以前のママはカラスの濡れ羽みたいなとてもきれいな黒い髪をしていたんだけれど、病気のせいでおばあさんのように真っ白になってしまったわ。  今は病気の治療のために、ママの生まれ育った村の近くにあるアーカムっていう街の療養所にもう何年もいるの。お見舞いに行ったりしても、ママはわたしたちを見ることなくどこか遠くを見ながら何かブツブツとつぶやいたりするの。  ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ なんとか かんとか  なんかこんなかんじの意味のよくわからない言葉ばかり。早くよくなってね、ママ。  弟のオーガストは6歳。生まれつき足が悪くて、耳も聞こえず言葉をしゃべることができないから何を考えているのかよくわからないように見えるの。  だから友だちも全然いなくて、いつも絵を描いたりしているわ。とっても気持ちの悪い絵をね。あの子が描いた身の毛もよだつようなおぞましい絵を見るたびに、わたしの正気度がどんどん削られていくような、とてつもなくイヤな気持ちになるのよね。  だけどオーガストはわたしのたった一人の大切な弟。愛してるわ、オーガスト!  これまでパパはボストンの大学で働いていたんだけれど、ママのいる療養所のあるアーカムっていう街の大学で働くことになったの。  アーカムに住むのが本当はよかったんだけど、パパがお仕事してるときは子供だけになってしまうからって、ママのママ、つまりわたしたちのおばあちゃんが住んでいる、アーカムから少し離れたダニッチという小さな村に引っ越してきたというわけ。
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