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家の中の絵
弟のオーガストは生まれつき足がわるくて、歩くときはいつも松葉杖を手放せないの。それに何も聞こえないし何もしゃべれないから、ボストンにいた頃はそのせいでいじめられたりしてたみたい。
もっともそのいじめっ子たちもわたしのゲンコツの餌食になったんだけどね。
だからほとんど外にでることもなく、家でお絵描きばっかりしていたわ。そう、吐き気をもよおすような気持ちの悪い絵をね。
それはおばあちゃんの家に引っ越してきても変わることはなかったわ。最近よく描いているのは、人が殺されている絵。
火あぶりにされている女の人とか絞首刑にされた女の人とか、首を斬られて血がビュービュー出てる女の人の絵もあった。
パパは昔の魔女狩りの絵じゃないかって言ってたわ。そんなもの見たこともないのにね。
そんな薄気味悪い絵だけど、おばあちゃんはすごく気に入ってるみたい。おばあちゃんが言うには、ピックマンっていう画家よりもよっぽど才能があるらしい。
それでお家のいろんなところに飾ってるの。だけどトイレに股を引き裂かれて殺された女の人の絵を飾るのは正直やめてほしいのよね。
出るものも出なくなっちゃうんだから!
ダニッチに来てから一ヶ月くらいたったある日のこと、いつものようにオーガストのおやつをこっそり食べたわたしは、なにげなくオーガストの描いている絵をのぞき見したの。そしたらいつもの殺された女の人の絵ではなかったのよ。
そこには目が一つある奇妙な形をした黒いなにかが描かれていたわ。あまりにも禍々しくてとても気持ち悪く感じたからわたしは聞いたの。
「オーガスト、これはいったい何の絵なの?」
もちろん手話でよ。するとオーガストはびっくりして慌てて描いている絵を隠そうとしたの。でもね、わたしは隠し事をされるのが大嫌いなの。だからもう一度聞いたわ。ゲンコツに物を言わせてね。
そしたら観念したのか、オーガストはお絵描き帳を一枚めくると、新しい白い画用紙にこう書いたの。
ともたち
わたしびっくりしたわ。わたしだってこっちに越してきてからまだ一人の友だちもできていないっていうのに、あのオーガストに友だちができたなんて!
それでわたしはオーガストの行動を監視しようってきめたの。なんとしてもあのマックロクロスケが何なのかを突き止めるためにね。
わたしがマックロクロスケを見たのはそれから3日後のことだった。
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