星の水全部抜く!

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星の水全部抜く!

幼い日に、テレビの画面越しに見たその光景を今でも鮮明に覚えている。 当時の話題といえば、大人も子どもも衛星カナロアについてのことだった。地球以外の天体で、初めて地表に水の存在が確認されたのだ。しかも、その星で採取することに成功した水からは、複数の生きた微生物が発見された。──地球外生命体の発見、未知との出会い。僕らは皆、カナロアの"ウミ"に夢中になった。"ウミ"と呼ぶには小さくて、せいぜい池、その程度の水たまりだったけれど。それでも、そこにはありったけのロマンが詰まっていた。さらなる生物が──もっと大型で高度な地球外生命体が棲んでいるのではないかと、期待せずにはいられなかった。 それから、一大プロジェクトが立ち上げられた。さらなる生命体を捜索すべく、大掛かりな機材と探査員たちを積んだ宇宙船が打ち上げられ、カナロアの地に降り立った。 ──その時の様子は、リアルタイムでテレビ中継されていて、僕らは皆息を呑んで画面越しに見つめていた。 ──探査員たちがウミの水を機材によって丁寧に抜き、コンテナの中に移し替えていく。そして、水がいよいよ少なくなって来ると、ウミの底には、砂泥に塗れてうごめく岩のような影が幾つもあった。僕らの胸は期待に高鳴った。その中の一つが捕獲され、水で泥が洗い流される。すると、ついにその姿が現れた。──亀だ! いかにも、 それは亀だった。でも、地球のどの亀とも違う。それは明らかだ。甲羅は虹色に輝いていて、頭にはツノのような突起があった。疑いようもなく、宇宙で生まれた特別な亀だ。本格的な地球外生命体との出会い。それがこの瞬間なのだ。幼いながらに、ただ事ではないことが起きたのを理解していた。 ≪まさに歴史的な瞬間です。ついに人類は地球外で、これ程までの生命体に出会うことができました。この瞬間は、間違いなく人類の歴史において重要な1ページになるでしょう!≫ ナレーターの語気につられるように、僕の鼓動も激しくなる。とんでもないことが起こったのだ。地球外生物なんて、作り話の中だけだと思っていた。けれども、そうではなかった。これでは宇宙人との遭遇だって、近い未来なのかもしれない。僕が大人になった頃には、世界は、宇宙はどうなっているのだろう。僕の小さな胸は、未来について、不安とそれ以上に大きな期待とではち切れそうになっていた。
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