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──まぁ、そんなこともあったな。そんなことがあってから、もう十数年経ったのか。そんなある日。特に何もない日。
僕は久々の休日を怠惰に満喫していた。テレビも点けっぱなしにしたまま、ウトウトと夢現つ。いつの間にやら番組が切り替わり、見覚えのあるバラエティが始まっていた。
≪──今回我々が地域住民たちのSOSを受け、やって来たのがこの池! なんでもここは、地球外生命体が棲む池だとか! 一体どういうことなんでしょうか。村長の村田さーん?≫
あー、これ、池の水抜くやつな。結構好きなんだよな、この番組。
≪「ワシらが子どものころは、この池も泳げるくらい澄んでました。でも今は、そうですね──10年前くらいから、ヤツらが蔓延るようになってからは、ガラリと変わってしまいました。水が濁って。ヤゴやメダカも居のうなってしまいました。だから今回、依頼したんです。少しでも元の池の姿に戻してやれたら思ぅて。」≫
住民らの思いを受け、番組クルーらが池の水を抜いていく。池の底が露わになると、そこには、おびただしい数の巨大な亀たちの姿があった。ああ、やっぱりあの亀か。概ね予想はついた展開だった。生物の専門家らしき男が画面上で解説する。
≪「これは、カナロアツノガメ。通称、宇宙ガメですね。およそ10年前の宇宙ガメブームの時に、地球にこの種が持ち込まれ、愛玩目的で大量に繁殖されました。そしてペットして飼いきれなくなり、この池に捨てられたものが、野生化したのでしょう。つまり、紛れもなく外来種ですね。」≫
そんなわけで、無事に外来種認定が下されたその亀は、容赦無く捕獲され、一匹残らず池から追放された。そして、画面には数ヶ月後の綺麗になった池の様子が映し出される。
≪今回捕獲された宇宙ガメたちは皆、曽良市の天文科学館に送られ、そこで飼育されることとなった。彼らが居なくなった池は、徐々に以前の環境へと戻りつつあるようです。きっとヤゴなどの在来生物も近いうちにこの池に戻ってくるでしょう。 ……さて、次に我々が向かった池は──≫
「──ああ、そうだ。そうだ。カメ蔵。カメ蔵にご飯あげなきゃ。」
はっと思い出して、部屋の角の水槽に向かい、その中へパラパラと乾燥エビを落とした。カメ蔵は、のそのそと面倒臭そうに、それらを拾っていく。僕はただのんびりとその様子を眺めていた。
「全く、お前らも難儀な亀だなぁ。勝手に面白がられて、連れて来られて、増やされて。今度は厄介者扱いだ。」
遊び半分に語りかけるも、カメ蔵は我関せずといった表情で、エサを食べるのに夢中だ。
「まぁ、どうでもいいか。そうか。」
十数年前の宇宙ガメブームの時に、母親に無理を言って買ってもらった亀。随分とデカくなった。これからも、もっとデカくなるだろう。何せ亀だし。きっと長生きする。僕よりも長く生きるのかも。
「……はぁ。」
特別意味もないが、ため息を漏らす。
──子どもの頃に夢に見た未来か、意外と何でもない。つまらないといえば、つまらないし、平和といえば、平和だ。そんなもんだ。そんなもん。ロマンなんてどうせすぐに色褪せる。アポロ11号だかの月面着陸だって、とっくに古びた記録映像にすぎないし。フィクションは、すぐにノンフィクションになる。つまらない現実に馴染んで、輝きを失う。たとえ天変地異が起こったって、僕らは何も変わらない。人類が進歩したつもりでも、僕らに進歩なんかない。足踏みしてるだけだ。ずっと昔から。足踏みしながらいつか、消えて無くなるだけ。ただそれだけ。だから僕らはずっと、何が起きようが何でもない。ずっと大丈夫だ。明日も、数千年後も。なんて、考えるのにもそろそろ飽きた。
「さて、僕もそろそろご飯食べるか。」
身体をうんと伸ばす。食事の用意をしよう。未来だの過去だの、考えるのもややこしい。今という瞬間だけを確かに食んでいけばいい。
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