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片付けたくない
「はぁ。片付けたくないな。」
──でも、そろそろ片付けなくては。私は、ため息を吐きながら、寝室の一画を見つめる。元々、整理整頓が苦手な性分だった。でも、最近は特に酷いと、我ながら思う。仕事の多忙を口実にして、放置しすぎたのだ。
寝室の片隅には、金属製の棚を置いている。物を収納すべくしておいた棚だが、近頃、物が増える一方で収まりきらなくなってきた。そして、余分な物を棚の周りにそのまま置く癖がついてしまったのだ。結果、寝室の一画はほぼ物置のような状態になってしまった。しかも、次第にその面積は増殖してきている。無造作に積まれているのは、就活時代のリクルートバッグ、着なくなった衣類をとりあえず袋に詰めた物、アウトドア趣味などないのに、何かの景品でもらったキャンプ用品、等々──要はガラクタばかりだ。
今になってようやく、片付けなければならないと、強く思うようになった。しかし、同時に片付けたくないという思いも強くなる。相反する感情、その要因は一つ。──気配がすること。
一週間ほど前からだろうか。散らかし放題の寝室の一画から、カサコソと音がするようになったのだ。明らかに、何かの生き物が生活をしている音だ。
しかし、なかなか、その姿を見ることはできなかった。寝室の隅から、此方に出て来る様子はない。一度、殺虫剤を片手に、恐る恐る物を退かせながら、その一帯に殺虫剤を吹きかけたとがあった。すると音は止んだ、かのように思われたが、しばらくするとまた何事もなかったかのように、カサコソと音がするようになった。──一般害虫用の安い殺虫剤だったのが良くなかったのかもしれない。もっと強力な、ゴキブリみたいに毒に耐性のある虫も駆除できるものでないと。
──そう……やっぱり、ゴキブリなのではないかと思う。初夏だし、そろそろ出てきてもおかしくはない頃だ。でも、もしかするとネズミかもしれない。一度、鳴き声のような物も聴いたことがある。「ヴゥッ!」と短い音が一度きりで、鳴き声なのか羽音なのかは判別は難しい。ゴキブリか、ネズミか……何にせよ、あまり対面したくはない。したくはないが、何とかしないと。
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