片付けたくない

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私は基本的に、あまり虫の類が得意ではない。しかしこれから、本格的に夏になると、一層ゴキブリなどの害虫も増えるだろう。散らかしたままだと、そんな害虫たちの格好の棲家となってしまう。その前に、片付けなくては。とりあえず、今あの場所に潜んでいる一匹を仕留めて、それから片付けよう。要らない物は躊躇なく捨てて、物を減らそう。それから──そうだ。まずは、強力な殺虫剤を買わなくては。 私は、いよいよ決心をしてから眠りについた。 翌日、私は早速、ドラックストアにて効き目のありそうなゴキブリ用殺虫剤を購入し、帰宅した。 そして、やや及び腰になりつつも、前と同じ様に邪魔な物を退かしながら、その殺虫剤を寝室の一画に噴射した。 すると、しばしの沈黙の後、ガサガサガサッ、バタバタバタッと壮絶な物音が──ガラクタの影や棚の隙間を何かが縦横無尽に這い回る物音がした。私は、その只事ではない音に驚いて、後ずさり、固唾を呑んでただ見つめる。這い回るような音は次第にバタンバタン、バタンバタンと転げ回るような音に変化し、やがてその音も止んだ。──ようやく、大人しくなったか。私は安堵した。すると、その瞬間。 「ヴゥーッ!」 「ヴゥーッ!」 「ヴゥーッ!」 「ヴゥーッ!」 ……鳴き声のような、呻き声のような、そんな音がガラクタの中から聴こえてきた。 「ヴゥーッ!」 「ヴゥーッ!」 「ヴゥーッ!」 …止まない。 躍起になった私は、殺虫剤をさらに、その一帯が煙たくなるくらいまで吹きかけた。 ──すると 「──ゥッ、ヴゥッ、ヴゥゥッ。ヴゥーッ!ヴゥゥゥッ!ヴッ!ウ…ッグルシ、グルシイッ‼︎ナンデ!グルシ……ヴゥーッ‼︎ヴゥーッ‼︎ウゥッ‼︎ヴッ‼︎ ヴゥゥッ‼︎ヴゥーッ‼︎‼︎ ヴゥーッ‼︎‼︎ ヴーッ‼︎」 ──壮絶な声。虫ではない。ネズミでもない。何かの、強烈な声。断末魔。 私は逃げるように寝室を出て、扉を閉めた。 ──こうして、背中を扉に引っ付けたまま、何分くらいだったのだろうか。恐る恐る、扉を開けた。覗き込む分には、部屋の様子に異常はない。当然ながら、殺虫剤の臭いがした。少し扉を解放し、中の空気を入れ換えた後、私は寝室内に入った。
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