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カナラズ カエル
日曜日の昼下がり、公園の広場は、色とりどりのレジャーシート、パラソル、そして、行き交う人びとの姿で賑わっていた。どうやら、フリーマーケットを催しているようだ。
(……少し、見てみようかしら。)
予定のない休日、近辺を散策していた彼女は、ふらりと立ち寄る。立ち並ぶ幾つもの露店達──それらを一通り物色しながら歩いていると、人の往来も少なくなるような隅の方に、ポツリと一つの露店があることに気付いた。彼女は、何かに吸い寄せられるように、その場所に歩み寄る。
それは、店と呼ぶにはあまりにも簡素なもので、茣蓙の上に、いくつかの竹の工芸品、そして、一体の日本人形が置かれているだけだった。
何気なく、その人形を手に取っていた。──古そうな人形だ。しかし、見れば見るほど、その精巧さに驚かされる。艶のある黒髪、柔らかそうな手指、大きな瞳は光を幾重にも反射して、まるで生きているようだ。彼女は、その人形に強く惹かれている自分に気付く。──単調な会社勤め、一人暮らしで会話もない、そんな無味乾燥な生活に何か癒しが欲しかったのかもしれない。
「これ、買うわ。」
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