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「……ねぇ、なんとか任務から外してもらえるようにできないの?」
泣きじゃくる妻、彼はどうにかなだめようとする。
「きっと大丈夫だから。これを連れて行く。これはね、僕の家に代々伝わるもので──まぁ、要するに、必ずこの家に帰って来るのさ。心配しないで。」
「……そんなの、ただの迷信よ。前時代的だわ。」
「大丈夫、必ず帰る。だから君も、どうか元気で。」
そして彼は、ただ一人、船に乗り込むと、コックピットに置いたそれを眺めた。──孤独な旅の唯一の相棒になるだろう。
この地域の民族的な衣装に身を包んだ、木製の人形だ。相当古いもので、形質劣化は見られるが、その作りの精巧さに、驚かされる。かつては、人形──そんな娯楽的な物にさえも、これ程までの技術と、情熱が注がれていたのだ。随分と、余裕のある時代もあったものだな。そう感慨に浸っている間に、船は打ち上がった。
(『前時代的』か、確かにそうかもしれない……。)
彼は、大昔の地球の船乗り達のことを思い出していた。彼らは、航海を行う際、安全を祈願して、船首に女神の像を取り付けたそうだ。──不安な旅路で、何かに縋りたくなるのは、昔も今も同じらしい。
「……必ず還るさ。」
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