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「帝国近衛府の方を、甘く見ておりました。事情があるとはいえ、無礼な振る舞いを致しましたことをお許しください」
静かで、凛と通る声はこれまでのラティーフではなかった。表情すらも違っている。上に立つ人間の揺らがない強さを感じるものだった。
「サバルド王国、カッハール王が子で、ラティーフと申します。この度は従者ジャミル共々命を救って頂いた事、感謝いたします」
「近衛府団長、オスカル・アベルザードです、王子」
改めて名を名乗ったオスカルに、ラティーフは緩く笑って頷いた。
「王子、何用でこの国へ参られました」
僅かだが、不安がある。ジャミルを見た時、とても似た印象を受ける相手を瞬時に思いだした。つい最近も面倒を収めたばかりの、帝国とは違う雰囲気のある男だ。
ラティーフは苦笑した後で、やや考える。だがすぐに知れると思ったのだろう。表情を引き締め、真っ直ぐにオスカルを見た。
「私を、匿って頂きたいのです」
「匿う? 何からですか?」
「我が国の、旧王朝派から」
嫌な予感は大体当たる。新たな嵐の目は、帝国の中に落ちて来てしまった。
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