332人が本棚に入れています
本棚に追加
戦況が悪くなった事を瞬時に悟ったのか、残る三人は散り散りに逃げて行ったが追わなかった。今はそんな場合ではないだろう。
「ジャミルさん!」
馬を降りたエリオットが駆け寄ると、ギリギリ立って剣を構えていたのだろうジャミルの体が崩れて地面に倒れ込む。小柄なラティーフがそれを支えようとしても容易ではなく、逆に押し倒される感じだった。
傷は深そうだし、出血がかなり多い。腕は勿論、胸元や脇腹、背中までダガーによる傷が生々しくいくつもついている。
ジャミル自身も体力を使い果たしたのか、意識はあっても息は整わないまま動けもしなかった。
「すぐに何処かの街に向かいましょう。出血だけでも止めないと」
特に酷い胸を斜めに裂いた傷と、肩口の傷を布で縛りあげたエリオットがオスカルへと視線を向ける。
だが、エリオットを止めたのは他でもないジャミルだった。
「王都、に……」
「そんな悠長な! ここから王都まではあと半日は馬を走らせなければならないんですよ? 貴方の体力が持つか……」
「俺はいい……王都に」
息が切れて脂汗の滲む状態でも、ジャミルの目は強い光がある。そして頑なだ。
「ジャミル様、どこか休みましょう! こんなんじゃ……」
「お前はいいから従え!」
最初のコメントを投稿しよう!