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涙を流しながら言い募るラティーフを一蹴するように声を張ったジャミルは、意見を変えないようだった。
溜息が出る。あまりに必死で、見ていられない。
「エリオット、急げば間に合うよ。王都に行こう」
「何言ってるんですかオスカル! そんなの危険……」
「行こう」
オスカルの凪いだ目を見たのエリオットが言葉を詰まらせる。オスカルは近づいて、ジャミルの体を支えてエリオットの馬に乗せた。
「ラティーフは僕が運ぶ。エリオットはとにかく急いで王都まで行って。関所とか、僕がちゃんとしておくから」
「……分かりました。ついてきてくださいね」
不安そうではあるがテキパキと動き出すエリオットが、ジャミルの体を自分に固定する。オスカルも不安そうなラティーフを立たせ、自分の馬に乗せた。
「あの……」
「助けるから、安心して。僕達はプロだからね」
エリオットが馬首を返し、こちらを見て一つ頷く。オスカルもそれに頷き返すと、互いに馬を走らせた。
足場も視界も悪い中を、風を切るような早さでエリオットが走り抜けていく。オスカルも全力で走らせているが、どうしたって追いつけない。それどころか気を抜けばあっという間に置いて行かれる。今でもかなり離されている。
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