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暗くなり始めた王都宿舎。手術用の部屋の前でオスカルはラティーフと共に座っている。
王都に到着したのは僅かに空が茜色になる頃。通常よりも二時間は短縮できただろう。
一番王城に近い西側砦を突破する勢いで走り抜けたエリオットに、関所警備の者達は呆然としていたが、後からきたオスカルが事情を説明すると納得してくれた。まぁ、彼らも騎手がエリオットであることは認識していたわけだし、騒ぎにはならないけれど。
その後、あれこれと場を整えて現在に至る。
隣りにいるラティーフは、とても不安そうに俯いて自らを抱いている。
サバルド王国の従者の格好。首に首輪をつけているから奴隷上がり。尊大な態度をとるジャミルと控えめなラティーフ。表面上、二人の関係は明確に見える。
だが、オスカルの目には違うものが見えている。
「ラティーフ」
「はい」
「君が、ジャミルの主だね?」
「!」
静かに問いかけたオスカルに、ラティーフは驚いたように顔を上げた。丸く少し大きな翡翠の瞳が、動揺に揺れている。
「なんの、事でしょう?」
「あのね、僕はこれでも陛下の護衛をしているんだ。守る側、守られる側の違いは分かるんだよ」
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