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「貴族や王族の背中に、鞭の跡があるとは思えません」
ジャミルが静かに瞳を閉じて、ふっと息をついた。
「ここは、どこだ?」
「王都の騎士団宿舎です」
「ラティーフは?」
「オスカルがついています。陛下宛の書簡を持っていましたので、明日謁見の予定です。今夜は騎士団宿舎の一室で休むそうです。貴方の側にいると」
「そう、か……では、問題ない」
エリオットの言葉を静かに飲み込んだジャミルから力が抜けたのが分かった。安堵した表情は静かで、昨夜の横暴さすらも消え失せていた。
「俺が、ラティーフ様の従者だ。訳あって身分を入れ替えて秘密裏に帝国に入らなければならなかった。貴殿には無礼な振る舞いも多々あった。申し訳無い」
まるで別人のような口調と雰囲気に驚きながらも、エリオットは頷く。元々それほど怒っているわけではなかったのだし。
それに訳というのは、彼らを襲った奴らの事だろうか。どうも、見た事のない感じだったが。
「なぜ、私に声をかけたのですか?」
「踊っている姿を見て、身のこなしや足の運びに武を見た。相手は相当上手いが、それに合わせる身体能力は素晴らしかった。心得のある者なら、護衛と案内を頼みたかった」
「そう言って貰えれば!」
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