娘より、希望をこめて。

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 壁に仕掛けたC4爆弾を見て、俺は複雑だった。  爆弾設置における、部下達の連係と手際の良さ。  この大日本帝国で「最後の砦」と呼ばれる精鋭部隊に相応しい、満足できるレベルだ。  後進達に、誇りさえ感じる。  しかし作戦遂行の度に、俺は違和感を抱く。  今回も、例外ではない。  このビル内に、帝国打倒と国王への中傷を書いた記者がいる。  その記者の殺害命令に、疑いを挟む余地はない。  だが、方法と命令が派手過ぎる。  このビルの構造なら、爆破せず、もっとスマートに侵入できる。    また、ビル内には複数の国民がいる。  しかし我々なら、他の国民を傷つけず、標的の記者だけを殺害できる。    国王直属部隊「ヴィクティム」である我々にとって、それは簡単だ。    だが、軍上層部が下した突入戦術は、壁面爆破。  そして、ビル内の国民皆殺し。    原因は、軍上層部の国王への忖度だ。    国王は目立ちたがり屋で、国民に力を誇示することに余念がない。  また反抗勢力から「爆発フェチ」と揶揄されるほど、爆破・爆発が大の好物でもある。  お陰で軍の武器庫は、C4をはじめ爆弾で溢れかえり、管理が追い付いていない有様だ。 「隊長、突入命令を」  耳にさした無線機のイヤホンから、部下の急かす声が流れる。  その声で我に返った私が、短く命令する。 「突入せよ!」  ドンッ! と腹に響く爆破音。  穴が開いたビル壁面に、全身黒ずくめでフル装備の1個小隊が、突入体形を崩さず侵入していく。  一番最後に侵入した私を含めた総員が、マシンガンを撃ちながらビル内を駆ける。  頭の中で響く命令――「ビル内で動くモノは全て殺害せよ」。  兵士にとって、国王と上官の命令は絶対だ。  私達は、従順に命令に従った。  標的の記者殺害の報告が、イヤホンから流れてくる。 「総員、撃ち方やめ!   最終のビル内索敵を行え!」    私はイヤホンで部下達にそう命令し、自らもビル内の索敵にあたる。  所々に、名前も顔も知らない人間達の死体が、冷たい床の上に転がっている。   
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