娘より、希望をこめて。

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 いつもの、見慣れた光景。  だが視界の片隅に、見慣れぬ光景を捉えた。    ヴィクティムの新入り隊員が、棒立ちになっている。  いかなる状況であれ、敵地で棒立ちとは。  国王直属の精鋭部隊として失格だ。 「貴様! 一体何をしている!?」  棒立ちの若い隊員に、私が詰問する。 「っ……申し訳ありません、隊長!」    最敬礼で謝罪する隊員の足元を見た。  少女の死体が、転がっていた。  年齢は、私の娘と同じく9歳ぐらい。  その少女の体中に無数の銃弾の穴が開き、純白であっただろうワンピースは朱に染まっている。  見開いた目は何も映さず、ただ空虚だった。 「……貴様。  この死体にまさか、同情していたのか?」 「違います……来月、娘が生まれるのです。  この少女の死体を見たら、その……」  言葉を続けられない隊員。    しかし私は、叱責しなかった。  できなかった。    私の胸中にも、彼と同じく、言葉で表現できない感情が広がっていたから。  作戦を終え、私は部下達を基地に戻した。  私も基地に帰還して帰宅し、ゆっくり休みたい気分だったが、そうもいかない。  帝国本部への作戦終了報告が待っている。  帝国本部・国王謁見の間で、私は正座していた。  謁見の間には、整然と軍上層部の将校達が整列している。  そして玉座には、国王が肘をつき、足を組んで座っている。  このオカッパ頭で太った国王が帝国を統治し、その命令は帝国に住む人間達にとって絶対だ。    つまり国王は、大日本帝国の象徴であり、神である。    正座したまま、私はつい先程終えた作戦を報告する。  その内容に、国王も将校達も満足げだ。
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