娘より、希望をこめて。

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「東条。  今回も帝国軍人らしい働き、見事である。  我は、お前を称えよう」  名指しで国王から称賛されても、俺に高揚感はない。  むしろ、虚無を感じる。  こんな気持ちになったのは、初めてだ。 「もったいないお言葉でございます、国王陛下」  内心を押し殺して返答する。 「お前は全ての作戦で、派手に爆破し、  我に歯向かうゴミどもを皆殺しにしてくれる。  その爆破はまるで、  大輪の打ち上げ花火を見ているようだ。  ゴミどもの死は、線香花火だが」  ニヤつきながら放った国王の言葉に、将校達が不自然に聞こえる笑い声をあげる。    これまでなら、その笑い声の輪に俺も加わっていただろう、何も考えずに。  だが、この大人達の言葉と笑い声を、あの9歳の少女が聞いていたら……。  将来があり、夢も希望も、大切に想う人も想われる人もいた少女の死は、ただの線香花火なのだろうか……。 「東条。  今日は浮かぬ顔をしているな。  日頃の大義に免じ、我に一言だけ語ってよい」  国王の発言に、将校達がざわめきたつ。  当然だ。  ヴィクティムの隊長とはいえ、軍では中堅幹部でしかない。  その分際で国王に話しかけるなど、通常なら即、極刑モノだ。  それは充分過ぎるほど、承知していた。  承知していたが、 「陛下。  今回の作戦で、9歳の少女を殺してしまいました。  本任務とは無関係な被害者です。  このことについて、  陛下の率直なお考えをお聞きいたしたく」  自然と口から言葉が出ていた。  一斉に、将校達が殺気立つ。  これで、出世は無くなった。  だが、俺の心はブレない。    今、この言葉を放たなければ、悔いを背負った人生を送ることになる。 その確信があったから。    国王は一瞬、冷たく鋭い目で俺を睨んだが、すぐに下卑たニヤけ顔に戻る。 「我への不満分子になりそうな人間は、  全て処分せねばならない。  東条、なぜ我が国が辺境の島国にあって、  世界有数の軍事と経済大国でいられるか、  分かっているな?」 「陛下ご一族の”血”の力に他ならず」  国王の問いに、俺は即答した。  それは、動かせない事実だから。
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