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「そのとおりだ。
我が一族は代々、人外の知能を誇る。
この知能あればこその、
我が国の繁栄なのだ。
そして、まだ我には世継ぎがおらん。
我が死ねば、この国は絶対的な知能を失う。
敵国からの侵略を受け、滅びの道を駆け足で進む」
それは国王のうぬぼれではなく、可能性の高い未来だ。
「我は万能の知能を、
愚民どもにあたえている。
その返しに、愚民どもが我に忠誠を誓うのは、
至極当然の摂理ではないか」
抗う気力も無くなった俺は、国王に深く頭を垂れ、謁見の間を後にした。
足を引きずるようにして引帰宅すると、「お帰り!」とはしゃぎながら、娘が抱き着いてくる。
「ただいま」と返して、俺は娘の体を抱き上げる。
娘は綺麗な服を着て、健康そのものだ。
服が血で朱に染まることもなく。
その体が銃弾で穴が開くこともなく……。
「コラッ、お父さんは、お仕事で疲れているのよ。
いい加減にしなさい」
エプロン姿で夕食の準備をしながら、妻が娘を叱る。
一家団欒で、夕食のテーブルを囲む。
この時間だけが、俺の人生にとってオアシスだ。
妻と娘の笑顔や声を聞いているだけで、作戦でこびりついた返り血と死臭が消えていく。
「私、お父さんと同じ国王陛下の兵隊さんになるよ!」
その言葉に俺の箸が止まるが、妻と娘は気付かず会話を続ける。
「だからお母さん、お父さんとお揃いの手帳を買ってよ!
この腕時計みたいに!」
そう言って娘は、自慢げに片手を掲げる。
その手首には、私と同じ腕時計が巻かれている。
せがまれて、昨年の誕生日にプレゼントしたものだ。
「そうね、ちょっと早いけど、
誕生日プレゼントに買ってあげる。
お父さんの手帳は特別だから、
隣町にしか売っていないのよ。
よし、明日はお母さんと隣町に出掛けよう!」
「ヤッター!
私、立派な兵隊さんになって、
平和のために一生懸命頑張るの!
それが、お国を守ってくれている国王陛下へのお返しだよ!」
幼子にまで、国王の影響は強く及んでいる。
それも捻じ曲げられて。
それを、俺自身の娘から突きつけられるとは……。
不意に、少女の残像が頭をよぎる。
あの少女は、腕時計をしていただろうか?
ネックレスは、イヤリングは……。
「どうしたの、お父さん?
怖い顔して」
娘の言葉で我に返った俺は、純真な娘の目を覗き込んで、微笑みを返した。
この時間が永遠に続けと、心で願った。
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