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翌日は、修羅場になった。
他国なら国家が転覆する規模の、大規模テロが発生したのだ。
それでも何とか帝国側が凌いでいられるのは、知能指数だけは高い国王が立案した冷酷な作戦が功を奏しているからだ。
作戦といっても、その根幹は至ってシンプルだ。
帝国貴族・議員・兵士以外で市街地にいる人間達は、基本的に撃つ。
テロリストが潜んでいる可能性がある建物は、消滅するほどの爆弾で爆破する。
他国では絶対に許されないこれらの作戦が、首の皮一枚で帝国を維持している。
ヴィクティムを率いて、俺は朝から戦い続けている。
だが、次々と戦死していく部下を目の当たりにし、限界を感じていた。
それは、国王も同じだったらしい。
「至急至急!
テロの首謀者が、
隣町に潜伏していることが判明!
即時空爆!」
通信兵の報告に、俺も部下達も顔が青ざめた。
俺達は丁度、隣町との境界線上にいる。
空爆されたら、俺達も巻き添えで死ぬ。
――現場の兵士も帝国側とはいえ、国王にとって、その命は”線香花火”程度か。
「全員戦闘解除!
全力退避!」
私の命令に、部下達が唖然とする。
その顔には、こう書いてある。
「(ヴィクティム――帝国のために”犠牲”となる部隊が逃げるのか?)」
「 市街地中心部まで撤退!
空爆後、隣町を威力偵察する!」
「逃げるわけではないのか」と安堵した部下達が、中心部に向かって駆け出す。
本当は、威力偵察などしない。
国王が立案した空爆なら、全てを破壊する。
偵察対象など、欠片も残らない。
俺は初めて、部下達に嘘をついた。
空爆終了の報告を聞いた俺は、部下達に待機を命じた。
部下達は困惑していたが、構わない。
これ以上、前途ある若者達を死なせる気はない。
ふと、記憶に何かが引っ掛かり……俺は急いでスマホを軍用ポーチから出し、妻にかける――繋がらない。
娘にもかける――繋がらない。
何度も何度も妻と娘に電話をかけたが、繋がらない。
今日、妻は隣町に来ているはずだ。
国王陛下にお返しするために、帝国の兵士になることを夢見た娘を連れて。
俺はマシンガンを捨てて、駆け出した。
目の前に広がる廃墟は、空爆の凄まじさと、そこにあった全ての生が奪われた事実を物語るに充分過ぎた。
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