娘より、希望をこめて。

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 緊急時は、謁見の間が司令本部になる。  行き交う兵士は多かったが、誰の注意も引かずに済んだ。  軍服のシルエットは、自爆ベストを上手くカモフラージュしてくれた。    俺は、謁見の間に入った。  大勢の将校達がいて、怒声が飛び交っている。  そして玉座に、国王の姿を見つけた。  俺が国王を目指して歩を進めると、潮が引くように将校達の怒号が静まっていく。  そして、俺が正座をするやいなや、 「東条!   今は報告など不要だ!   それに貴様はヴィクティムの指揮官として、  前線にいるべきだろう!   何をしに来た!」    将校の一人から怒号が飛んだが、俺は相手にせず、国王の目を見詰めた。 「東条よ。  それを実行すれば、我が国の頭脳が無くなる。  それ即ち、我が国の消滅する未来を意味する。  それを知っての愚行か?」  さすが、世界一の知能指数の持ち主だ。  国王は、俺の行動を予見している。  だが……。 「人の命を線香花火と見下す者が国王の座にいる国こそ、必ず滅亡する。 何より、この国の未来を作るのは国王、あなたではない。  今を生きる若者達だ」  そう言い返した俺は、軍服の前をはだけた。  C4爆弾が10本以上収納された自爆ベストが、露わになる。  謁見の間どころか、帝国本部を吹き飛ばすほどの破壊力だ。  将校達が悲鳴をあげ、ついに国王の顔にも恐怖が浮かぶ。 「と、東条よ、考え直せ!   全知全能の我だからこそ、  繁栄を極めた我が国を統治できているのだ!」 「その統治とやらで苦しんできたこの国の人々からの、これがお返しだ!」  国王に言い返した俺が、自爆用スイッチを右手に持ち、高らかに掲げる。  その手首には、娘の腕時計が巻かれている。  最後に、俺は静かに国王に語りかけた。 「俺の妻と、何より、  あなたを敬愛していた娘の頭の上に、  あなたは爆弾を落とした。  その、お返しだ」    俺は……笑っていた。  だが、狂気の笑みではない。    来たるべき新世界への希望を考えると、自然と笑みがこぼれた。    俺は、自爆用スイッチを押した。  目が眩むほどの、白い輝きにくるまれた。  その輝きの向こうで、妻と娘が笑顔で待っていた。 返信転送
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