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 クエビコは海を越えた、日の沈む先の、四つ辻鳥居の向こう側にある、黄金(おうごん)が実る畑に突っ立ている。右腕だけを上げて突っ立っている。左腕は随分前になくしたと言っていた。  クエビコと言うのは、大変物知りであった。  そこから動いたことなどないだろうに、あらゆることを知っていた。天気の移り変わりから、その者が誰であるかさえ、なんでも知っていた。(わら)しか詰まっていないような頭のはずなのに、本当に不思議なくらいに様々なことを知っていた。  クエビコと言うのは、僻地に住んでいることや、その容姿から様々な噂を持っているものでもあった。  例えば、元々は(はりつけ)にされて死ぬはずだった罪人だとか。  例えば、その知識を妬んだ術師の呪いによって、醜悪な姿に変えられてしまっただとか。  あんな僻地に居座っているのは、実はあの地には金銀財宝が隠されており、クエビコはその守り人なのだとか。  そんな噂があっても、誰もクエビコを襲おうと思わないのは、ひとえにクエビコがなんでも知っているからだった。何を考えていようと、クエビコにはすべて筒抜けだと人々は信じていた。人々はそんなクエビコを畏怖していたし、同時に崇めてもいたのだった。  クエビコはもちろん、自分に対してそんな噂が流れていることも全部知っていた。しかし、特に聞かれることもなかったので黙っていた。もし仮に、知られている恐怖に打ち勝ち、クエビコを亡き者にしようと襲ってくる輩が現れても、クエビコはそれはそれで自分の運命だと思っていた。
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