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弐
クエビコは海を越えた、日の沈む先の、四つ辻鳥居の向こう側にある、黄金が実る畑に突っ立ている。右腕だけを上げて突っ立っていて、左腕は随分前になくしたと言っていた。
クエビコと言うのは、大変物知りであった。
そこから動いたことなどないだろうに、あらゆることを知っていた。天気の移り変わりから、その者が誰であるかさえ、なんでも知っていた。藁しか詰まっていないような頭のはずなのに、本当に不思議なくらいに様々なことを知っていた。
「クエビコ殿よ、今年も例年と同じ時期に種蒔きをしても大丈夫だろうか?」
「ここ暫く南の地で日照りが続いている。クエビコ殿はどのようにお考えだろうか?」
「最初は四足、次いで二足、最後は三足になるものを、クエビコ殿はご存知か?」
四つ辻鳥居を抜けた黄金の畑は、国でもかなり辺境の地だと言うのに、クエビコの知恵を頼って、しばしば国の者が彼のもとを訪れた。時には、クエビコと知恵比べをしたり、論議を交わす知識人もいた。
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