星空を誰と見るか

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星空を誰と見るか

宿に到着しても、双子は起きなくて、航と悠真で部屋に運んで寝具の上にそっと寝かせる。 天使のような寝顔だ。 「夕食の前に起こそう。悠真くんも軽く休んでおいて。今日は、夜に行動することになるからね。」 「はい。」 「あと、ここの宿ってそんなに大きくないから、今日は男子部屋で相部屋になるから、よろしくね。」 男子部屋…とは…。 「もう1人、宮原っていう人が来るんだ。もしかしたら、途中から他にも1人、合流するかもなんだけど、もう、最初から最後まで、がやがやしていて申し訳ないね。」 航はにこにこしていた。 学校では、修学旅行や合宿のようなこともあるが、プライベートでの旅行で、男子同士の雑魚寝状況というのは、実は、悠真にはあまり経験がない。 父はそこも含めて、経験、と言ったのか。 けれど、そんなはじめての経験のいろいろは、悠真にとって、楽しみでもあった。 今日は、双子といい、はじめての雑魚寝といい、初めて、のことが多くて楽しくて仕方ない。 「いえ、全く大丈夫です。宮原さん?」 「うん。まあ、同僚でもあるんだけど、ここで星を見ることを最初に僕に教えてくれたのが、宮原なんだ。ここで、天体観測をしている人が、宮原の友人で。天文学の偉い人。僕らと同い年なんだけどね。彼のコネでそんな観測もさせてもらえるんだけど。」 「そうなんですね…。」 「変なやつなんだけど、ちゃんとした論文をいくつも出しているし、その世界では有名な人なんだよ。一応ね。」 最近は少し、落ち込むようなことも、考えさせられるようなこともあったけれど、今日、来て良かった、と、悠真は心から思った。 そこへ、トントンとノックの音がする。 「入るぞ。」 そう言って部屋に入ってきたのがたった今、話をしていた宮原である。 クールな表情の、眼鏡をかけた理知的な雰囲気の男性だ。 「ちょうど、お前の話をしていたんだよ。」 「へえ…。」 「こちらは榊原さんのご子息の悠真くん。悠真くん、こちらが、宮原だよ。」 「お誘いいただいて、ありがとうございます。榊原悠真です。」 悠真が頭を下げる。 「宮原尚人です。あ、今日はうちのツレも一緒なんで、後で紹介します。気、使うことないメンバーなんで、悠真くんも気楽にしてください。」 宮原は、表情はあまり変わらないけれど、気の置けない雰囲気は伝わってきて、悠真は、はい、と返事を返した。 航も、奥さんの小春も、この宮原も、すごく良い人で、悠真は一度で気に入ってしまったのだった。 その後、夕食の際に宮原がツレ、と称した奥さんを紹介してくれた。 「え?上総さん?」 凛の同僚でもある、上総はたまに、榊原家に遊びに来るので、悠真もよく知っている。 「悠真くん、驚いた?」 上総がいたずらっぽく笑う。 猫のような人なので、そんな表情がとてもよく似合う人だ。 「あれ、上総は悠真くんと知り合いか?」 「凛さんとこに行くとたまに会うから。」 「そうか…。」 「ふ…もう、ホント人間関係のことには鈍いんだから。」 上総は肘で、宮原をつついて、苦笑している。 「そうか…言われてみれば、だな。」 双子も少し休んだら、元気に起きて、食事していた。 二人とも悠真がすっかり、気に入ってしまったようで、食事中も悠真の隣がいい!というので、悠真は、双子に囲まれながら食事をすることになったのだ。 夕食後、天文観測所に車で向かう。 「よく来たね!双子ちゃーん!」 大歓迎で出迎えてくれたのが、宮原の友人だという片瀬波瑠だった。 「波瑠さーん!」 双子が波瑠に抱きつく。 波瑠の中性的な顔立ちは、ぱっと見たところ、いくつなのか分からない。 けれど、先程の航の説明では、宮原と同級生、とのことだったし、美人って年齢不詳になるものなんだな、と悠真は関心する。 「この子は初めまして、かな。」 双子をわしゃわしゃし終わって、波瑠は悠真に向き直った。 「榊原悠真です。」 「こんばんは。片瀬波瑠です。よく来たね。若いなあ、いくつ?」 「高校2年です。」 「へえ…君、天体とか興味ない?」 「片瀬、ナンパしまくるのはやめろ。その子は、経営者を約束されているような子だよ。」 「そうかあ、じゃあ、偉くなったら是非ともうちを援助してほしいなあ。」 「しているでしょ。榊原トラストだよ。」 「えー?そうなんだあ…。」 そんな返事は返ってきたけれど、なんとなくこの人、把握していないな、という気が悠真はする。 「てか、片瀬、分かってないだろう?」 「僕がそんなこと分かってると思う?」 やはりか。 なんとなくそんな気はした。 「望遠鏡、使うのか?」 「今日は使わないよ。外の観測台での観測メインで。最初に少しだけ講義してあとは、それぞれで堪能してもらおうと思ってる。」 じゃあ、また後でね。 そう言って、片瀬はその場を去っていった。 「あれで、そこそこの偉いさんなんて思えないだろう?」 呆れたような声で航に言われて、乾いた笑いを漏らした悠真だった。
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