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対決する覚悟はあるか
「はー、それにしても、葵ちゃんとこの子と、うちの子が仲良くなるなんて、すごい偶然だし、びっくりしたわ。」
「水野さん、お変わりないですねえ。」
「てか、葵ちゃんよ。ママになっても、相変わらず小動物のように愛らしいわよね。」
子供は子供で席に座り、葵と美樹は別の席に座っていた。
簡単な食事と、お茶を飲みながら、近況などを話す。
「あら、じゃあ、こっちに引っ越してきたの?」
「ええ。やっと、家族で一緒に過ごせる、と思ったんですけど。」
「なるほど、旦那さんの成嶋氏は、遠洋漁業に出たきり、と。」
「覚悟はしてたんですけど。」
「成嶋氏自身が、マグロだものね。」
「マグロ…?」
「止まると死ぬんでしょ。」
あははっと二人で笑う。
そこへ、葵の携帯に着信があり、葵は少し慌てて水野に目で合図をして、席を立つ。
電話の相手は炯だった。
炯が日中、葵に直接電話を掛けてくることは珍しい。
「炯さん?どうしたんです?」
『葵?ごめん、今、どこ?』
葵はホテルの名前を伝え、水野家の面々とお茶をしていることを簡潔に伝える。
『今、貴広さんから連絡があって、悠真くんの入学式が終わったそうなんだけど、さくらに会いたいみたいなんだ。場所を伝えるが、いいか?』
貴広さん、とは榊原悠真の父親だ。
榊原トラストという会社のCEOであり、成嶋炯の会社の取引先でもある。
この辺りでは、駅前のタワーと呼ばれる大きなビルを経営していたり、他にも多角的に経営をしている会社だ。
近隣では、その名前を知らないものはいないだろう、という規模である。
「はい。あ、メールします。」
炯のことなので、榊原に連絡しつつ、アクセスの案内もするはずだ。
今、いる場所をメールに添付しておけば、炯はそれを転送するだけで済む。
炯はとにかく、忙しくて時間がない人であるのは百も承知しているので、葵はプライベートでは、炯の手を煩わせたくないのだ。
携帯からは笑みを含んだ、炯の声。
『サンキュ。悪いな、助かる。』
そんな、葵の気遣いなど、お見通し、の炯だ。
葵は、適わないなぁ、と思う。
席に戻ると、水野が気づかわし気な顔で葵を見る。
「大丈夫?」
「はい。あ、人が増えても構いませんか?」
「ええ。成嶋氏からだったんでしょ。」
「はい。成嶋の取引先のご子息が、さくらと3つ違いなんですけど、合流されたいみたいで。」
水野ならば、同席しても構わないはずだ。
30分程後に姿を現したのは、榊原悠真だった。
「葵さん、こんにちは。」
高校1年のはずだが、そうとは思えないほどの落ち着き。
「こんにちは。」
葵も席を立つ。
「こちらは、元、同僚の水野さんです。水野さん、榊原悠真さんです。」
「初めまして。」
悠真は社交に慣れた笑顔だ。
「悠真くん!」
「さくらちゃん!」
さくらへと向けた笑顔は、年相応の笑顔で、葵は少し安心する。
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