1

1/12
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ

1

 四月六日の夜、小島(こじま)(ひとみ)は明日の準備をしながら、ぼんやりと夕方の出来事を思い出していた。  中学校の入学式を翌日に控えた今日、瞳は近所の神社を(もう)でた。 「(ふじ)(うら)神社」と言うその神社は、瞳の家から歩いて十分あるかないかの場所にある。住宅街のど真ん中にぽつんとある、小高い丘の頂上に建っていた。丘は、鎮守(ちんじゅ)(もり)よろしく木々に(おお)われて、規模は大きくはないが、昔から地域に根付いている神社だった。  その神社で、明日から迎える新生活への無事を祈った瞳は、拝殿(はいでん)に背を向けた。帰路にはつかず、神社の奥まったほうへと足を向ける。普段から人が訪れることが少ないと思われる場所に来て、瞳は立ち止まった。敷地内の開けた場所だ。瞳は一つ大きく息を吸い込むと、上空を見上げる。  若草色の瑞々しい葉が芽吹き始めた大木――この神社の御神木だった。人一人では抱えられない太い幹には、注連縄(しめなわ)が掛っている。樹齢は二百年を優に越えるはずだ。     
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!