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四月六日の夜、小島瞳は明日の準備をしながら、ぼんやりと夕方の出来事を思い出していた。
中学校の入学式を翌日に控えた今日、瞳は近所の神社を詣でた。
「藤の浦神社」と言うその神社は、瞳の家から歩いて十分あるかないかの場所にある。住宅街のど真ん中にぽつんとある、小高い丘の頂上に建っていた。丘は、鎮守の杜よろしく木々に覆われて、規模は大きくはないが、昔から地域に根付いている神社だった。
その神社で、明日から迎える新生活への無事を祈った瞳は、拝殿に背を向けた。帰路にはつかず、神社の奥まったほうへと足を向ける。普段から人が訪れることが少ないと思われる場所に来て、瞳は立ち止まった。敷地内の開けた場所だ。瞳は一つ大きく息を吸い込むと、上空を見上げる。
若草色の瑞々しい葉が芽吹き始めた大木――この神社の御神木だった。人一人では抱えられない太い幹には、注連縄が掛っている。樹齢は二百年を優に越えるはずだ。
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