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 ばたばたと階段を駆け降りた。瞳を呼んでいた張本人が、すでに朝食を食べ終え、テレビの前を陣取っている。彼女に気付いて面白そうに笑いながら声を掛けた。 「おはよう。ねぼすけ姉ちゃん」  むっとした彼女は、黙ってテーブルの席に付いた。 「寝ぼすけなんかじゃないわよ」  膨れっ面で、小さく言い返す。  ずっと瞳を呼んでいたのは、弟の大哉(だいすけ)である。五つ年下の小学二年生だ。  その弟は、呆れたような顔をする。 「あんなにやかましいのに、姉ちゃんおきなかったじゃんか。言っとくけど、なりはじめてから、五回はゼッタイによんだよ、ぼく」  言い返された瞳は渋い顔をして、つんとそっぽを向いた。 「うるさいわね。あんたも学校でしょ。さっさと行けば? 私も急ぐんだから」  瞳は出された朝食を食べ始める。大哉は暫くの間、向けられた背中を黙って眺めていた。 「言われなくても行くけど。…でも姉ちゃん。急いでるとこに水さすのもわるいいけど」  一度言葉を切った弟に、瞳は怪訝そうに視線だけを送る。大哉は勝ち誇ったような顔で続けた。 「入学式が午後からなの、わすれてるでしょ」  食べ物を口に運ぶ手がぴたりと止まる。  ――そうだった…。  小中学校の入学式は毎年同じ日なので、この辺は中学校の入学式は午後なのだ。  大哉に見事に負かされてしまった。 「今回は大哉の勝ちみたいね」     
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