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苦笑混じりに、母が瞳の前の椅子に座る。むすっとした顔で、瞳は母を無言で睨んだ。
「言い返せないんでしょう? だから瞳の負けなのよ。自分が一番わかってるでしょ?」
穏やかな喋り方は、母の気性がよく表れている。
うーあーと、言い返せず呻いている瞳を尻目に、ランドセルを背負った大哉が、行ってきますの声も元気よく家を出て行った。それを瞳はじと目で見送ると、食事を続行する。
暫くして、母は食器の片付けをするために、台所の奥へと引っ込んで行った。瞳はその後ろ姿を見ながら、なんとはなく今朝の夢を思い出した。
「……入学式だって言うのに、あんな夢みるなんて……最悪」
瞳はぼそぼそと独りごちる。
爛々と赤く光る生き物の目。耳の奥で響いた、低い唸り声。
ぞくりと背筋に鳥肌が立った。まだ、あの赤い目に、絡め取るようなあの視線に見られているように錯覚する。瞳はそれを振り払うように首を振った。これ以上は夢のことは考えないようにしようと、自分に言い聞かせた。
――大丈夫。どうせただの夢なんだから…。
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