1

3/12
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
 瞳は、前につんのめるようにたたらを踏みながらも立ち直った。危なく相手に頭突きをしそうになるのを、なんとか堪える。手を掴まれていた感覚が消える。そろそろと目を開けた。見知らぬ誰かの運動靴が見えた。男物だ。サイズが大きい。  そのまま上へと辿るように視線を滑らせていく。黒に白のラインの入ったトレーニングパンツだ。  さらに見上げていけば、臙脂(えんじ)色に灰色の重ね着風の長袖Tシャツを着ていて、瞳が真正面を向いた時、視線は丁度相手の鎖骨当たりだった。  また見上げていく。相手の顔を見た時、瞳は瞬きをした。予想される身長や体格から成人男性を想像していた。実際、身長は瞳より頭一つ分は高いだろう。しかし、視線の先にあった顔付きは、瞳とたいして変わらない年頃に見えた。  真っ黒な絹糸のように綺麗な髪だった。同い年の男子と比べ、全体的に少し長めだ。多少くせがあるのか、所々外はねをしている。前髪の間から(のぞ)く目は吊り気味で、仏頂面も相まって少しきつめな印象を受ける。黒曜石のような黒い目は吸い込まれそうな、不思議な雰囲気があった。睫毛も長く、全体的に整った顔立ちだ。 「……なんだ」     
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!