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     ◆   ◆   ◆  嵐のような音がする。吹いていった風が頬を撫でた。  ――……寒い  冷たい風に瞳は目を覚まし、あたりを見回した。 「――…ここ…どこ…?」  すべてが闇一色で、声は木霊のように返ってくる。  漆を塗り込めたような闇には何もない。聞こえていたはずの風の音は凪ぎ、耳鳴りのしそうな静寂が覆い被さってくる。 「寒っ…」  ぶるりと体を震わせ、腕で体を抱く。  心臓が()き、背筋をぞくりと別の寒さが走っていく。手でぎゅっと腕を?み、さらに身を(すく)めた。  ――この感覚を、どこかで知っている。  漠然(ばくぜん)とそう思う。  息が詰まった。どこからか見られているような心地がする。ねっとりと(から)め取ろうとするような、(まと)わり付く気配を感じる。ごくりと、生唾を飲み込んだ。  凪いでいた風が再び吹き始める。生ぬるいそよ風が、次第に嵐のように吹きすさんで来た。  立ったままでは風に押されそうになり、瞳はその場にしゃがみ込む。体を丸めて小さくなった。     
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