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耳元を、風が獣のように唸って駆けていく。耳を塞いだ。それでもなお、風の唸りはやまない。瞳の周りをぐるぐると回っているようだった。
動悸が速まり、それに伴って息が上がってくる。固く目を瞑った。
――怖い。
肩で大きく呼吸を繰り返した。頭に断続的に鋭い痛みが走り始める。一切明かりがないはずなのに、瞼の裏で光が稲妻のように明滅した。
――怖い。嫌だ、いやだ、いや……っ。
一際激しく閃光が炸裂した。それに弾かれたように瞳は顔を上げる。
「いやっ!!」
涙声の悲鳴と共に目を開けた。そして、ひくりと息を呑む。
濃い闇の中、爛々と赤く光る双眸が、瞳を見詰めていた。思わず声の限りに悲鳴を上げる。金切り声は反響しながら、闇に吸い込まれて消えていく。
「――」
微かに何かの囁きを聞いた気がした。しかし、なんと言われたか判然としないまま、瞳の意識は急にふっと遠退き始める。
耳の奥で、獣の雄叫びのような声が聞こえてくる。声はどんどん大きくなり、頭の中一杯に響き出す。
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