借金を返し続けた男の話。

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俺の名前は小林悠太。どこにでもいる一般的な会社員。そんな俺には一つだけ、ある秘密がある。それは、多額の借金を抱えていること。借金は海外へと消えた親友のものであり、連帯保証人を請け負っていた俺は数千万にも及ぶ借金を、あいつの代わりに返し続ける生活を送っている。はぁ、今頃あいつ何してんだろ。 そんな俺に、過払い金調査の機会が舞い込んできた。どうやら調査自体は無料らしいので、物は試しだと思い、受けてみることにした。 「えーっと、小林悠太さん」 「あ、はい」 「どうやら貴方には過払い金があるようです」 「本当ですか!?」 そんな弁護士の言葉に、喜びを噛みしめた。何円だろうと、抜か喜びだろうとこの喜びを隠せずにはいられなかった。今日だけ、少しだけ贅沢をしても神様は許してくれるだろうか。 「それで、いくらの過払い金が…?」 「二億円です」 「に、二億円?」 最初に自分の耳を疑った。次に弁護士を疑った。最後に、現実を疑った。二億円。それは借金の返済に追われる日々から、大金持ちの生活へ一転できる金額だ。 「いやでも、俺には心当たりがなくて……」 「私も初めてのことで驚いていますが、確かに貴方のお金です」 「はあ……」 あまりにも現実離れしていた。昨日までカツカツの生活をしていた男の元に、二億が舞い込んでくる?そんな作り話みたいなことが……今現在、俺の元に起きていた。 「こちらの方で調査を進めます、本日は一度お帰りください」 弁護士に言われるがまま、俺はその場を後にした。 その帰り道、いつもの精肉店で、揚げたてのコロッケと缶ビールを二つずつ買っていった。これが、今の俺が考えられる贅沢だった。 自宅に着くなり、袋の中のコロッケと缶ビールを開けた。揚げたてのコロッケはさくっとしていて肉々しい。カシュッと鳴いた缶ビールで、コロッケを喉奥へと流し込んだ。美味い。そういえばビールなんて久しぶりだ。無心で食べ進めている内に、手元のコロッケは消えビール缶は空になっていた。だが今日はもう一つずつ買っているんだと、袋の中に手を伸ばした時だった。 あいつが隣にいれば、もっと美味かったろうに。そんな考えがよぎった。俺を裏切り、海外へ逃げた親友の姿。二人で馬鹿やって、笑っていたあの日々を思い出す。 二億なんていらないから、またお前と会いたい。 そんな願いは、コロッケとビールに流されて、喉奥へ消えた。
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