4人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「姉ちゃん!」
呼びかけられ、揺すぶられ、少女はゆっくりと目を開けた。
「起きた!」
目の前には、二つ年下の弟がいた。
「大丈夫、姉ちゃん?」
いつもは生意気なくせに、珍しく心配そうな顔をしている。それもそのはずだ。なぜか、自分は地面に倒れていた。
ここは、いつもの裏山?
ゆっくりと体を起き上がらせ、汚れたセーラー服を無意識に整えながら、視線を彷徨わせる。
「タローがさ、一人で走って家に戻ってきたから、何かと思って。俺ひっぱっていくからついてきたら、姉ちゃんが倒れてたんだ。具合悪いの?」
弟の言葉に、首を傾げる。
飼い犬のタローを連れて、散歩に来たことまでは覚えてるのに。
「よく、わかんない」
タローが頭をすり寄せ、心配そうにこちらを見てくる。
「大丈夫? とりあえず、家に戻ろう。歩ける?」
本当に心配させてしまったのだろう。弟が珍しく優しい。差し出された手をつかみ、立ち上がると、弟に先導されてゆっくりと山を降りていく。
いつもの裏山。だけど、今日は何かが違った気がする。思い出せないけど。
でも、思い出せない方が、いい気もする。
「うぅぅぅ、わん!」
タローが一度振り返り、何もいない土塊に向かって吠えた。
最初のコメントを投稿しよう!