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ファミレスでは二十代後半ぐらいの大人しそうな女性と、十代の無闇に元気そうな女の子が待っていた。食事はほぼ終わりかけのようで、女の子の方が話しているのを、女性が楽しそうに聞いている。
「沙耶、真緒ちゃん」
円が声をかけると、二人が顔をあげる。
「お疲れさま」
二十代の女性の方、大道寺沙耶が微笑んだ。その隣に、円は腰をおろす。
向かいに座っていた女の子の方、神山真緒は、円の後ろにいた隆二の姿を上から下までざっと見回す。点検するように。
「してないだろ、怪我」
それに呆れたように隆二は言うと、隣に座った。
「お前さ、心配しすぎ。平気だって」
「隆二は自分の心配をしないから、あたしが代わりに心配してあげてるんでしょ?」
少し怒ったような言葉に、
「なんだそれ」
ふっと笑うと、真緒の髪をくしゃくしゃっと撫で回した。まだ何か言いたそうだった真緒だったが、それで毒気を抜かれたのか、
「おつかれさま」
それだけ言った。
「あー、お腹空いた」
そんなやりとりを尻目に、円がメニューに手を伸ばす。
「肉食べたい、肉」
「神山さんは、どうします?」
メニューを、沙耶が手渡そうとするのを、
「俺はいいや。コーヒーで」
「いいの?」
「お前、その分、デザートも頼ませて貰えば?」
「おごり前提なのね」
隆二の言葉に円が苦笑する。
「仕事後の打ち合わせも兼ねてるんだから、そっちの経費だろ?」
「まあ、そうね」
円は苦笑したまま一度頷くと、メニューと円と隆二を順番に見比べる真緒に、
「どうぞ、好きなデザート頼んで」
「ありがと」
嬉しそうに笑うと、沙耶からメニューを受け取り、デザートのページを眺めはじめる。
「沙耶もなんか頼めば? デザート」
「円姉のおごり?」
「しょうがないからね」
「やった」
「沙耶はどうする?」
真緒が沙耶にも見えるようにメニューを広げ直し、パフェがいいだのケーキがいいだの言いながら選び始める。
隆二はそれを少しだけ微笑みながら眺めていたが、
「……何?」
向かいの円が、そんな自分を面白そうに見ているのに気付き、笑みを引っ込めた。
「別にぃ?」
愉快そうに語尾をあげた円の返答に、気恥ずかしくなって視線を逸らす。
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