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「そうか。じゃ、おいらもゆるしてやるか」
男の子があっさりと言った。
おいら? 自分のことを、おいら、って言うんだ――。
なんだかおもしろくかんじた。親しみがわいた。そんな、こわい子じゃないって気がしてきた。
それに。
男の子はあの時よりしゃべるようになったんじゃないかな? うちとけたかんじだ。
「ほら、手をうごかせ」
男の子に言われ、ぼくも手がとどくはんいでウメをちぎった。
おそらくは二十分とかからず、あらいおけに山もりのウメをちぎることが出来た。ずいぶん早い。ウメはまだなっていたけれど、うちでつかうぶんがあればいいんだから、ぜんぶちぎるひつようはないんだ。
「こんなものかな」
と、男の子がきゃたつからおりた。きゃたつに立ってちぎることもわりと多くて、きゃたつを持ってきたぼくとしてはあんしんした。
見たかんじ、男の子には引っかききずの一つもないようだった。
やっぱり、とんでもない。
「てつだってくれてありがとう。父さんもよろこぶよ」
「そうか。よかったな」
言って、バケツをおいて体をはたいた男の子がぼくを見つめてくる。
「おいらが力をかしたこと、元男にはないしょだぞ」
男の子が、口早に言った。父さんの名前をよびすてだ。
「どうして?」
「元男はいい顔をしないだろうからな。お前が、おいらみたいなのとかかわりを持つのがしんぱいなんだ」
男の子がむくれて言った。
なんとなく、わかってきた。思い出した。
父さんは、この男の子のことを前から知っていたんだ。
いぜん、男の子のことをせつめいした時。父さんは、わざと話題をかえようとしたんじゃなかったかな?
そうか。かかわり合うと、しんぱいされちゃうんだ……。
トットロッ、ト。
あらいおけからウメがこぼれた。山もりだったからだ。
ぼくは、ひざをついてこぼれたウメをひろう。
「だけどな。お前だって、ちょっとはいいかんじなんだ」
前かがみになっていたぼくの後ろ頭を、男の子の声がなでる。
「うん? いいかんじ、って?」
と、ウメをひろい集めて顔を上げるぼく。
けれど、その時には――。
男の子は、いなくなっていた。
だれのすがたもなく、じゅくしたウメのあまいかおりがただようばかりだった。
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