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男の子は、ふたたびウメの木に上がった。きゃたつなんて本当はいらないんだろうな、って思えるぐらいにみがるだった。
「そっち、左手の方。とどくかな……」
男の子に言われたので、ウメがなっているところを教えた。
「おぉう。こっちだな?」
きびんに男の子がうごく。
男の子は、どんどんウメをちぎっていく。
気になって見上げていたぼくだけれど。ふと、頭にうかんだものがある。聞いておかなければ、と思う。
「あのさ、カラスのことなんだけど」
と、口にのぼらせた。
そう、カラスだ。あの日から、うちの畑――うちのまわりでカラスを見なくなった。
ぼくと男の子が出会ったあの日、あの時――。
「おおぅ。あいつらな。どっか~ん、だ」
男の子が、声をはずませて言った。
『あいつらか。かんしゃくどっかん』
――あの時、男の子はそう言ってすがたをけした。あいつら、というのはカラスのこと。
そして、カラスはいなくなった。一月半ばから今にいたるまで、うちのまわりでカラスを見ていない。
「カラスをどうにかしたの?」
「うん? どっか~ん、だぞ」
言って、男の子は手を止めた。
「それは、その。いのちをうばう……とか? ――そういうこと?」
「どうかな? ようりょうのわるいヤツはいたかもしれない」
男の子がぼくの方をむいて言った。
「気になるのか?」
「うん。ひどいことをしていないといいな、なんて」
「カラスがもちを持っていったんだろう? あいつらに、くれてやったわけではないんだろう?」
「ま、まぁ。そうなんだけどね」
おもちといっても、かがみもちだった。井戸や自転車におそなえしていたかがみもちをカラスに持っていかれていた。ダイダイのかわりにのっけていたみかんはのこして、おもちだけ持っていかれた。はらが立ったのはまちがいないけれど。よく考えてみると、ね。
「なんていうか……。食べものが少ない時期だったし。カラスもひっしだったのかな、なんて」
「今は、そんなふうに思っているのか」
「うん」
「そうか。じゃ、あいつらがいてもかまわないんだな?」
「あんまりわるさをされちゃ、こまるけど。まったくすがたを見ないというのも、おちつかないよ」
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