【泣きぼくろ】

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{5} あれから… 四年の月日が流れた。 今日は、日曜日。 私は、夫の敏夫と一緒に近所の公園に桜見物に来ていた。 公園のベンチに座り、 雲一つ無い、青空を見上げる。 『あれから、もう四年かぁ…。鈴木さん、天国で奥さんと仲良くしているかしら…』 私は、思いを馳せた。 鈴木さんが癌で亡くなったのは… 今から四年前の事である。 『あの一件』から… 生前の鈴木さんは、本当に紳士的に私に接してくれた。 私も彼に料理はもちろんの事、掃除や洗濯もいろいろと教えてあげた。 「いろいろ教えてくれて…本当にありがとう。 ワシも、何か三浦さんに『お返し』をしなければのぉ」 生前の鈴木さんは、何度も私にそう言ってくれた。 『鈴木さん… こちらこそありがとうございます。ちゃんとお返しは、頂きましたよ…』 私は、青空を見上げながら、天国の鈴木さんにそう呼びかける。 と… 「ああ…正子。 僕は今、凄く幸せな気分だよ…」 不意に、 隣にいる夫の敏夫が、私に優しく微笑みかけて来た。 私も思わず、夫ににっこりと微笑みを返す。 「私もよ。あなた。 今、とっても幸せ…」 かつて、私と敏夫の間に有った… あの、妙な『距離』みたいなもの…。 それも今では、すっかり無くなっていた。 今…私の腕の中には、 今年、三才になる息子の孝夫が、すやすやと可愛らしい寝息を立てている。 『それにしても… 敏夫と、鈴木さんの血液型が偶然、同じで… 本当に良かったわ…。 大丈夫。きっと夫には、バレないわ…』 私の腕の中で、すやすやと眠る、可愛い息子の右目の下には… これまた、可愛くて小さな『泣きぼくろ』が… ちょこんと、付いていた。 鈴木さん…。 ちゃんと『お返し』は… 頂きましたよ………。 ~END~
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