15人が本棚に入れています
本棚に追加
{5}
あれから…
四年の月日が流れた。
今日は、日曜日。
私は、夫の敏夫と一緒に近所の公園に桜見物に来ていた。
公園のベンチに座り、
雲一つ無い、青空を見上げる。
『あれから、もう四年かぁ…。鈴木さん、天国で奥さんと仲良くしているかしら…』
私は、思いを馳せた。
鈴木さんが癌で亡くなったのは…
今から四年前の事である。
『あの一件』から…
生前の鈴木さんは、本当に紳士的に私に接してくれた。
私も彼に料理はもちろんの事、掃除や洗濯もいろいろと教えてあげた。
「いろいろ教えてくれて…本当にありがとう。
ワシも、何か三浦さんに『お返し』をしなければのぉ」
生前の鈴木さんは、何度も私にそう言ってくれた。
『鈴木さん…
こちらこそありがとうございます。ちゃんとお返しは、頂きましたよ…』
私は、青空を見上げながら、天国の鈴木さんにそう呼びかける。
と…
「ああ…正子。
僕は今、凄く幸せな気分だよ…」
不意に、
隣にいる夫の敏夫が、私に優しく微笑みかけて来た。
私も思わず、夫ににっこりと微笑みを返す。
「私もよ。あなた。
今、とっても幸せ…」
かつて、私と敏夫の間に有った…
あの、妙な『距離』みたいなもの…。
それも今では、すっかり無くなっていた。
今…私の腕の中には、
今年、三才になる息子の孝夫が、すやすやと可愛らしい寝息を立てている。
『それにしても…
敏夫と、鈴木さんの血液型が偶然、同じで…
本当に良かったわ…。
大丈夫。きっと夫には、バレないわ…』
私の腕の中で、すやすやと眠る、可愛い息子の右目の下には…
これまた、可愛くて小さな『泣きぼくろ』が…
ちょこんと、付いていた。
鈴木さん…。
ちゃんと『お返し』は…
頂きましたよ………。
~END~
最初のコメントを投稿しよう!