【泣きぼくろ】

2/13
前へ
/13ページ
次へ
{1} 最近… 私と夫の敏夫の間には、 何となく『距離』みたいなものが、出来てしまったように思う。 『距離』が出来たと言っても… それは、イコール『溝』が出来てしまったと言うのとは、また違う…。 決して、私たちの夫婦仲が、冷えてしまった訳ではない。 むしろ、私たちは今でもお互いを深く愛している。 そして、愛しているがゆえに… ある種の『距離』が出来てしまった…。 そう。 私と敏夫は、お互いがお互いに対して、ある種の『負い目』を感じていたのだ。 結婚して、今年でまる三年。 私たちは職場で知り合った。 当時、私はある養護老人ホームの職員として介護の仕事をしていた。 そして、そこに食品を納入していたトラックドライバーが敏夫だった。 私たちは、何度か会っているうち… お互いに好意を抱き始め、そして交際を重ね… 今から三年前に結婚した。 しかし、結婚後も、 私は介護の仕事を辞めずに働き続けた。 私は、まだまだ今の仕事を続けたかったのだ。 私は元来、介護の仕事が好きで充実感と生き甲斐を感じていた。 十代の頃に、介護系の専門学校に通い、ヘルパー四級を取得し、今の老人ホームに就職した。 そして、そこで五年近く働きながら実務経験を積み、ヘルパー三級も取得した。 利用者のお年寄りの人たちは皆、良い人ばかりだし、職場の人間関係も凄く良い。 (殺伐とした介護の現場もたくさん有ると言うから、私は本当に幸せ者だ) 正直、仕事がキツい時も有るには有るが、それはどこの職場も同じ事だろう。 敏夫はその事に理解を示してくれた。 「僕は、正子が今の仕事を続けたいと言うのなら、全然、構わないよ。 家庭で専業主婦してもらうより、僕は働いている君にホレたんだもの。 それに正直、共稼ぎしなきゃ家計も苦しいしね」 こうして、私たち夫婦は結婚後も共稼ぎを続けた。 そして… 結婚して二年め… つまり、ちょうど今から一年前に… 私は、妊娠をした! 「うわぁ!やったわ!あなた!」 「正子!でかしたぞ!」 念願の第一子! 私も敏夫も飛び上がって喜んだのは言うまでもない事である。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加