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「お、今度来たヘルパーさんは、ベッピンさんじゃな!婆さんの若い頃にそっくりじゃ!ヒヒヒ」
と…
これが、私が初めて鈴木さんの家を介護の仕事で訪れた時の、彼の第一声だった。
「はじめまして!
三浦と申します!どうぞよろしくお願いします!」
と、私は鈴木さんに努めて冷静に頭を下げた。
「ふん!どうせ、あんたも他のヘルパーみたいにシッポを巻いて逃げ帰るんだろうて!ま、いつまで続くか分からんが、よろしくな!」
鈴木さんは、いやらしくニヤニヤ笑いながら、小馬鹿にしたような物言いをした。
私は、鈴木さんの事について、事前にいろいろと会社から話を聞いていた。
彼の家は、市街地から離れた郊外に建つ木造の一軒家だ。
定年まで、ずっと小学校の校長先生だったとの事である。
元々は、この家にご夫婦で生活していたのだが、
奥さんが数年前に病気で他界。
それ以来、彼は一人で暮らしている。
奥さんが亡くなった時、
鈴木さんは相当にふさぎ込んでしまったんだとか。
娘さん夫婦が「お父さん。一緒に住もうよ」と言っても、
鈴木さんは「ワシはお前らの世話になんぞならん!」
と、その申し出を突っぱねて、この家に一人で暮らし続けているとの事だ。
まだ背筋が伸びて、しゃきんとしているのだが、足が悪く、あまり一人で外を出歩けないのだそうである。
こうして…
週に二日、
私が鈴木さんの家に仕事で訪れる日々が始まった。
『それにしても…』
と、私は内心で思う。
鈴木さんは、目鼻立ちが整っていて背も高い。
右目の下に有る、泣きぼくろも、凄く印象的だ。
『若い頃は、イケメンで結構モテたんじゃないかな…』
しかし…
彼は、その端正なルックスとは裏腹に、飛び出す言葉の数々は、そのほとんどがイヤミなものばかりだった。
「全く!最近の若い娘は体の発育は良いが、頭の中身は空っぽじゃな!」
「生きていた頃の婆さんなら、そんな手抜き掃除は、しなかったぞ!
ほらほら!次は洗濯じゃて!」
それと、彼は隙有るごとに私のお尻を触り、
その度に
「ヒヒヒ。済まん済まん。手が滑っちまった」
と、下世話に笑った。
まあ、私も介護の仕事は、ある程度、経験を積んできたつもりだ。
そう言った、イヤミの一つや二つやセクハラは、平然と流したし、仕事も自分なりに懸命にこなした。
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