ザッハトルテが作りたかったから

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あった。ツルツルした茶色のケーキ。朝六時半は閉店前だけど、一個だけちょこんと残っている。 「今日は、ザッハトルテ」 「ザッハトルテ? 珍しいね。勉強の為?」 「はい、作ってみようと思って」 「僕はビターチョコを使っているからちょっと甘さが足りないかもよ」 さいほさんがケーキを取り出しながら言う。 「大丈夫です。そういえば、あざかみさんもザッハトルテ好きなんですか?」 「安座上くん? あー、確かに週一で買うね。ザッハトルテ」 大人は週一でケーキ屋さんに来れるんだ。私はやっと二週間に一回くらいしか行けないのに。 「一番好きってこの前言ってました」 「え? どっかで会ったの?」 「昨日道でフラフラ歩いていました」 「ブラック企業なんじゃないかな安座上くんの会社は……」 学校で言ってた。ブラック企業に就職すると死んじゃうかもしれないらしい。 「あざかみさん過労死しますか?!」 「いや、そこまでは大丈夫と思うけど」 「この前自分のこと『しゃちく』って言ってましたよ!」 「大丈夫大丈夫。僕の店に来れてるならまだまだ元気だよ」
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