8人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
とある作家の後書き、その〆は必ずこう書かれる。
『最愛なる君へ』
当初、それは読者全般へのメッセージだとその作家は言っていた。しかし、たったひとつのこの言葉は、どうしてか愛が溢れすぎている感覚を覚えさせ、特定の誰かへのメッセージとしか受け取れなかった。
特定の誰かへだろうと、不特定の読者へだろうと、読む側が微笑みを浮かべるくらいに深い慈愛が満ちて取れた。
ある時、雑誌のインタビューでそのことを掘り下げられると、彼は決まり悪そうに白状した。
「特定の誰かへ宛てたわけではないのです。ただ、メッセージ性を強くするためには、自分の良く知る誰かを想像して書くほうが、伝わりやすいと思っています。あの言葉を書く時、必ず特定の誰か、僕の一番大切な人を思い浮かべて書いているのは確かです」
会えなくても、大切な人がいつだって自分をそばに感じていられるように、彼は綴り続ける。
それを読む時の大切な人の微笑みを思い浮かべながら、心を込めて後書きの最後を綴り、大切な人だけではなく、様々な人へのエールとなることを彼は祈る。
込められた想いを届けたい。それは決して彼の大切な人だけへ向けられたものではない。
読む人へ手紙を書くように彼は綴り続ける。
ふと大切な人の姿を思い浮かべて、ふと読み手の微笑む姿を想像して、彼は丁寧に丁寧に言葉を紡いで行く。
最初のコメントを投稿しよう!