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 連休明けの朝、秋鹿が家を出ると、玄関の前で松虫が待っていた。 「おはよう、あーちゃん」 「おはよう。ごめん、待たせた?」 「大丈夫。今来たばかりだから。行こう」  二人は昔のように一緒に登校するようになっていた。 「今日、何だか寒いな」 「うん、寒いね」  何でもない会話が、心地好い。松虫は秋鹿に、読み終えた本のことを話してくれた。  頷きながら耳を傾けていると、松虫の声に混じって、パチッ、パチッと、静電気のような音が聞こえる。何だろうと思って視線を巡らすが、そのような音を立てるものなど何も無い。気の所為(せい)だろうかと、松虫の話に集中しようとするが、やはり奇妙な音はする。  鼓膜の内で、小さな火花が起こっているみたいだった。秋鹿は立ち止まり、耳を押さえた。 「あーちゃん?」  松虫が振り返る。「どうかしたのか?」  秋鹿は耳から手を離した。音は止んでいた。
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