748人が本棚に入れています
本棚に追加
/325ページ
7
連休明けの朝、秋鹿が家を出ると、玄関の前で松虫が待っていた。
「おはよう、あーちゃん」
「おはよう。ごめん、待たせた?」
「大丈夫。今来たばかりだから。行こう」
二人は昔のように一緒に登校するようになっていた。
「今日、何だか寒いな」
「うん、寒いね」
何でもない会話が、心地好い。松虫は秋鹿に、読み終えた本のことを話してくれた。
頷きながら耳を傾けていると、松虫の声に混じって、パチッ、パチッと、静電気のような音が聞こえる。何だろうと思って視線を巡らすが、そのような音を立てるものなど何も無い。気の所為だろうかと、松虫の話に集中しようとするが、やはり奇妙な音はする。
鼓膜の内で、小さな火花が起こっているみたいだった。秋鹿は立ち止まり、耳を押さえた。
「あーちゃん?」
松虫が振り返る。「どうかしたのか?」
秋鹿は耳から手を離した。音は止んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!